ピエール・アルコヴェー
Berthier
「燈台守」を監督したジャン・グレミヨンによる最初のトーキー作品で、シャルル・スパークが書き下ろしたシナリオに基づいた小品映画である。「金」のピエール・アルコヴェー、「メニルモンタン」のナディア・シビルスカヤが主要なる役を務め、ミハレスコ、ベルトーが助演している。
一時の怒りから妻を殺して二十年の懲役に処せられたベルティエは、真面目な働きによって減刑出獄の恩典に浴し、十二年ぶりに懐かしいパリへ帰って来た。幼いときに見たっきりの娘リーズにあったベルティエの喜びは大きいものだった。母に死別し、父を牢獄に見送った娘のリーズが頼る辺ない身で何なに苦しい生活を続けてきたか、それは彼女の青白い陰鬱な面影に読まれる。ベルティエは娘に済まないと感じた。彼は娘に生活の驚異をあじわせるようなことはもうしないと心に誓って仕事を探しに出かけた。以前の雇主の許を訪れて事情を打ち明けて仕事を貰い、その上給金の幾分かを前払いして貰って家路に急いだベルティエは、帰宅して娘の手提げの中にその紙幣を入れようとして図らずも一枚の質札を発見した。その質札は先程彼がリーズに与えたばかりの思い出の時計を預けたものだった。ベルティエはリーズにどうして時計を入質したかを尋ねた。しかしリーズは泣くばかりだった、リーズはアンドレという恋人があった。貧乏故に苦しんでいる彼等は婚資も持っていなかった。僅かな金を得るために時計を質に入れようとした二人だった。そうしてアンドレは因業な質屋のおやじと口論を始め、喧嘩となった。リーズは恋人の危険を助けようと側にあった壷を質屋のおやじの頭に投げた。当たり所が悪かったかおやじは脆くも倒れた。息が絶えたのである。ベルティエはそれとは知らず時計を受け出しに行った。そして全てを彼は悟った。娘をこんな境遇に落とし、こんな罪を犯させたのは誰の罪だ?彼は娘の身み代わりに質屋殺しの罪を負うべく決心して、警察の門をくぐった。
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