アリベルト・モーグ
Man
新人アレクシス・グラノフスキーの手になる純粋トーキーとも言うべき作品。脚本は反戦映画脚本家として知られるヴィクトル・トリヴァス、それにH・レヒナーが協力してまとめ上げられている。音楽指揮は「嘆きの天使」のフリードリッヒ・ホレンダーである。出演者はジオドマーク第一回トーキー「別離」のアリベルト・モーグを始め、マーゴット・フェルラ、等々。
人生は水の流れだ。音楽のメロディーだ。そこには平和な小波がある。険しい渓流がある。そこには恋のクレシェンドがあり、失望のデクレシェンドがある。一人の少女がある。彼女の周囲には人生に飽満した、最早人生に新鮮な喜びを感ずることの出来ない人々の群がある。少女はこの人生を教えられなかった。醜く歪んだ人生を見た少女は失望して逃避を企てる。然しその時一人の青年の力強い腕が彼女を救った。青年は彼女に人生を教える。それは労働と恋愛に満たされた新鮮な生き甲斐ある人生だ彼等は働きそして戯れた。少女は人生の美しさを知った。少女は漸く彼等の創った新しい命が体の中に躍るのを感じた。新しい命の創造は然し彼等に苦難を与えた。若い妻は手術をうけなくてはならない。手術台、メス、麻酔剤、昏睡、併しその瞬間、真白な手術室には新しい生命が漲る、赤子だ。丸々と肥った男の子だ。父と母と子の生活、母の振るゆり篭の中に白い帆かけ船を持って幼児は笑う。「お船に乗って今に坊やは海に出るのだ」と若い父は差し覗く。母は驚いて子供を抱きしめる。「いいえ坊やは離さない」涙ぐむ母の頬に父はそっと接吻する。青年になった子供の胸に、広い海への果てしない遠い、知らぬ国への憧れは湧く。それを見守る母の心は哀しい。併し子は母のものではない。子もまた人生を知らなくてはならないのだ。船出の朝、子の瞳は輝く、それを見つめる母の瞳も--涙で。「帰っておいで」母は子に囁く。日焼けした顔はうなづき、船は霧の中へとける。張り切った子の胸にふと母の子守歌が浮かぶ。人生への船出、舳がぐいと沖へ出る。
監督
脚本
脚本
撮影
撮影
音楽監督
作曲
[c]キネマ旬報社