ヴェルナー・クラウス
Heinrich Martin
「朝やけ」「お洒落王国」と同じくギュンター・シュタペンホルストの製作した映画で、かつて「タルチュフ」「パンチネロ」等に主演した名優ヴェルナー・クラウスの最初のトーキー主演になるものである。監督は「朝やけ」「愛国者」のグスタフ・ウツィツキで、脚本は「激情の嵐」「会議は踊る」と同じくロベルト・リープマンが書き卸した。助演する人々は「黒衣の処女」「クウレ・ワムペ」のヘルタ・ティーレ、「青の光」「黒衣の処女」のマチアス・ヴィーマン、舞台女優のヘレーネ・ティーミッヒ、「勝利者」のユリウス・ファルケンシュタイン、同ハンス・ブラウゼウェッター、マックス・ギュルストルフ、マリア・バード、等である。作曲は「少年探偵団」のアラン・グレイで、撮影は「朝やけ」「会議は踊る」と同じくカール・ホフマンの担当。
ロシアのある自動車工場に不思議な過去を忘れた男が働いていた。彼は己れの名前すら忘れていたのだったが、或る日、不図した事から十六年間忘れていた昔の己れを呼び醒ました。この男は嘗てはハインリッヒ・マルチンというドイツの陸軍中尉でベルリンで手広く自働車工場を経営していたのだった。が、世界大戦の際、愛妻と生れたばかりの女の子とを親友サンダーに託して出征したところ戦いに重傷を負って、その時に昔の事を総て忘れたのである。然し、このマルチンが十六年振りで懐かしい故郷のベルリンへ戻った時、そこに彼を待ちかまえていたものは余リといえば意外な事どもであった。即ち彼は総ての人々から忘れ去られ、彼の実の娘すらがサンダーを父と呼んでいる有様だった。マルチンは狂った様にして裁判所へ馳けつけ、又市役所へ行った。が、何処に処っても彼の名は抹殺されていた。彼は戦死しものと信じられていたのである。それから絶望に沈んだマルチンは当てもなく市中を歩いていたのだが、その時、彼は貧しい周旋屋のユリウス・ハンケに呼び止められた。ハンケは彼を汚ない己れのアパートに連れて行った。其処には貧しい人々が住んでいた。失業中の女タイピスト、失敗した実業家、指をこわしたピアニスト。併し、この人々は笑っていたし、お互いに助け合い愛し合って将来に望みを繋いでいた。これらの人々に励まれてマルチンは己れを世の中に認識させ、そして再び己れを世の中に生かそうと訴えた。そして彼は裁判に訴えた。証人は妻と娘とサンダーだった。だが、そこで彼は私欲で一杯になっている人々の裏切りを見た。で、マルチンは奮然として法廷を後にした。そして彼は再び貧しい人々の間へと帰って行った。彼は過去の富、過去の愛、そうした総ての過去を潔よく棄て去って、貧しい人々の間に、将来の幸福をめざして、第二の人生に旅立とうというのである。
Heinrich Martin
Dr. Alfred Sander
Eva Maria Sander
Helene Martin
Julius Hanke
Gablinsky
Grete Schulze
Referendar
Amtsrichter
Amtsgerichtspresident
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