ティム・ロス
Vincent van Gogh
新印象派の画家ヴィンセント・ヴァン・ゴッホとその弟テオの受難の生と不思議な連帯を綴った伝記映画。当初TV用に製作されたが、その出来の良さにより本国で劇場公開された。監督は「ニューヨーカーの青い鳥」のロバート・アルトマン。脚本はジュリアン・ミッチェル、撮影はジャン・ルピーヌ、音楽はジャン・ジャック・ベネックス作品などでお馴染みのガブリエル・ヤーレが担当。出演はティム・ロス、ポール・リース、ウラジミール・ヨルダノフなど。
現代、クリスティーズでのゴッホの絵画オークション風景から一転、カメラは過去に遡る。19世紀後半、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(ティム・ロス)はあり余る創造意欲に苛まれるように、オランダ・アムステルダムでの日々を過ごしていた。自らの画風の確立に向けての苛立ち、そして貧困。そして娼婦シーン(イプ・ヴィンガールデン)への真摯さゆえに均衡を欠いた熱愛……弟テオ(ポール・リース)は、そんな兄の才能に信頼を置き、自らが勤める画廊で兄を擁護するのだった。光と影、正と反のように互いに他の分身であるヴィンセントとテオの深い精神的連帯に余人の立ち入る隙はない。テオはヴィンセントからの手紙を新妻が盗み読もうとした時、彼女を罵倒、それを契機に彼の家庭にひびが入り始める。一方、この頃、ヴィンセントは自分の魂の兄弟としてポール・ゴーギャン(ウラジミール・ヨルダノフ)を知る。二人はテオが画策して作った資金で南プロヴァンス地方へ旅行、絵画製作に励むが、ヴィンセントは生来的不安意識からか段々と奇行を繰り返すようになる。或る晩、娼婦の顔に黒の絵の具を塗りまくって興じていたヴィンセントを、ゴーギャンは止めに入り、ヴィンセントの激情が爆発、混乱のまに、遂に自らの耳を切り落としてしまう。ヴィンセントは病院に収容され、彼を見舞うテオ。退院後、ゴッホは再び絵画作りに没頭する。そして……。広い、草の生い茂る黄金色の草原。その只仲に画布を置いたヴィンセントは、しかし画布には手をつけず、その場を立ち去ろうとする。そこにあたかも虚無が放ったような一発の銃声。瀕死の態でヴィンセントはよろけつつ歩む。そして死。その死を悼む葬列が、彼が描いた鴉のように郊外に向けて歩む。しかしヴィンセントの墓の前で読み上げられる弔辞の不適格さ、偽善ぶりに傷ついてテオは、ひとり蹌踉とその場を脱け出す。そうして彼の辿り着いた先は、恰もヴィンセントの絵の中のような草原だった。終景。二つの墓石が映し出される。一つはヴィンセントの、いま一つはヴィンセントの一年後に死んだテオの墓石だった……。
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