監督
1984年のこと、東ドイツのベルリン近郊にあるDEFA撮影所(第二次大戦前のUFA撮影所)所属の映画監督だったシビル・シェーネマンとその夫は、突然東ドイツ国家保安警察に逮捕された。それから5年の歳月が経ち、ドイツ再統一が成ってから、シェーネマン監督は再び東に戻った。かつてそこで自分たち夫婦に起こった事件の意味を探るためである。モノクロームの抑制された映像のなかで、かつて彼女が受けた試練が静かに再現されてゆく。彼女が捕らえられていた監獄には今は受刑者はいないが、暗く冷たい重苦しさだけは変わらない。彼女は5年前の出来事をさかのぼる恰好で政治刑務所、犯罪者識別写真の撮影、囚人護送車、捕らえられた留置所などを再び体験し、留置所のなかではかつて同じ房に入っていた友人と語り合う。それと平行して、今でも自分の逮捕は不当だったと確信する彼女は、そこに関わる記録に目を通し、判事、取り調べ官、弁護士、役人、撮影所の上司などを訪問し、インタヴューを申し込む。自分は恨みをもって帰ってきたのではない、ただ真実を知りたいだけだと語りかけながら。だがその半数以上の人々はインタヴューを拒否するか、言い訳をつくって約束の場に現われなかった。インタヴューに答えた人はそれぞれに、自分は職務を遂行しただけだ、上の者の要請に従っただけだ、ただルーティーンとして仕事をしただけ、あるいはなにも分からない、とだけ答える。彼女は当時はわからなかった事実も多く手にいれたが、結局なぜ自分たちがこれだけ苦しまなければいけなかったのかという問いに対する答えは見つからなかった。この映画は全体主義国家の専横と横暴、そこに組み込まれた人々の無力、盲目、責任の欠如と偽善について、知的で抑制された映画話法の奥底に深い哀しみをたたえつつ、告発している。シビル・シェーネマン監督は逮捕と一年間の獄中生活のあと、西ドイツに追放された。獄中で体をこわしていたためしばらく療養生活を余儀なくされたが、健康を回復してからはハンブルグで脚本家・劇作家として活躍している。91年山形国際ドキュメンタリー映画祭山形市長賞(最優秀賞)受賞。
ストーリー
※本作はドキュメンタリーのためストーリーはありません。
スタッフ
監督
アルフレッド・ウルマー
製作
シビル・シェーネマン
撮影
Thomas Plenert
音楽
Thomas Kahane
編集
Gudrun Steinbruck
録音
Ronald Gohlke
字幕