実験映画とアニメーション、ジャンルこそ違えど、世にも奇妙なる映像を見せることではヨーロッパを代表する存在である二人の映像作家、トニー・ヒル(英)とジョルジュ・S(スイス)の作品のアンソロジーをセットで上映した特別公開作品集。 <トニー・ヒル作品集>英国を代表する実験映画作家、トニー・ヒル(46年生まれ)のアンソロジー。1984年~1993年の間に、BBC2の深夜番組『一分間映画計画』(日本未放映)やチャンネル4といった自国のテレビ用に製作したユニークな短編が並ぶ。単純なカメラの動きを基本にした奇妙なトリック撮影が見どころ。出演者は作者のヒル自身の家族や知人がほとんどである。44分。 <車輪の歴史>BBC2のレイト番組『一分間映画計画』放映作品。1分というわずかな時間の間に、固定した画面の中、回転する車輪が大八車から最先端の技術を駆使したタイヤに変貌していく様を映した短編。1992年製作、カラー、スタンダード、1分。 <ヴュアーを持つ>BBC2の深夜番組『一分間映画計画』放映作品。鉄の棒を担いだ男(キース・アレン)が人ごみ・横丁・屋根の上など至る所をよろめきながら歩いていく様を特殊撮影でとらえた一編。観客は、あたかも担がれた棒の先端に乗せられながら、ヴュアーをのぞきこんでいるかのような錯覚にとらわれる。1993年製作、カラー、スタンダード、1分。 <時報映像>BBC2のレイト番組『一分間映画計画』放映作品。英国の象徴とも言うべきロンドンの大時計台“ビッグ・ベン”が、文字盤どおりに画面上で時を告げていくというまさに“衝撃の映像”。1990年製作、カラー、スタンダード、1分。 <ウォーター・ワーク>プールで泳ぐ人々が水と戯れる様を、全編ほとんど水中カメラでとらえた映像作品。水面を境にした二つの世界を水の反射・屈折率・逆回転撮影などを駆使して、美しくもユーモラスな世界を造り上げている。出演はジェームズ・モーガン、ボニー・ヒル、ジェシー・ヒル、パット・ヒル。88年メルボルン国際映画祭ベスト実験映画賞受賞作品。1987年製作、カラー、スタンダード、11分。 <拡張映画>ごく普通の光景がゴムのように縦横に引き伸ばされることで、世にも奇妙なイメージが現出される実験映像作品。テレビとそれを見る少女、ピアノの鍵盤、戸口に立つ女性、牛、往来を歩く人々……などが極端に細長くなったり、縮んだりしている。1990年製作、カラー、スタンダード、13分。 <ダウンサイド・アップ>ごく普通の光景をとらえながらも、カメラが極端な上昇と下降を続けることで奇妙な映像が生み出されている実験映像作品。草原でピクニックをしている一家、公園、夜の往来、台所……などが、突然地上へ舞い上がったり、地下に潜ったりという自在なカメラの視点がみどころ。86年メルボルン国際映画祭ベスト実験映画賞受賞作品。1984年製作、カラー、スタンダード、17分。 〈ジョルジュ・S作品集〉スイスを代表するアニメーション作家、ジョルジュ・S(シュイツゲーベル、44年生まれ)の才気溢れる短編アニメのアンソロジー。70年『パッチワーク』でデビュー以来、多数の映画祭に出品され数々の賞を受賞している実力派で、特に実物をよりリアルに表現する卓抜したデッサンには定評がある。40分。 <イカルスの飛翔>電光掲示板めいたデジタルな光の点々の明滅で描かれた、ギリシャ神話でおなじみの『イカルスの飛翔』の物語。音楽はフランソワ・クープランが担当。G.D.S.カルージュ作品。1974年製作、カラー、スタンダード、2分58秒 <遠近法>遠近法の構図の中、滑らかに動く女性の姿を流麗な視点で描いた作品。使用曲はバッハで、演奏はA・M・ヘイバーリが担当。G.D.S.カルージュ作品。1975年製作、カラー、スタンダード、1分30秒 <オフサイド>サッカー競技がいつの間にか、バスケットボールやアイスホッケーに鮮やかにメタモルフォーズしていく様を描いた作品。音楽はガイ・ブーランジェが担当。ル・スタジオ・G.D.S.作品。1977年製作、カラー、スタンダード、6分。 <フランケンシュタインの恍惚>モノクロの実験室から誕生した無機質な塊が、いくつもの幾何学的な部屋をくぐり抜けていくうちに、次第に部屋とともに生気を帯びて変容していく様を不思議な感覚で描いた作品。撮影はイヴ・バサール、音楽はミハエル・ホロウィッツとライナー・ボーシュがそれぞれ担当。スタジオG.D.S.作品。1982年製作、カラー、スタンダード、9分30秒 <78回転>アコーディオンが奏でるワルツの調べに乗せて、公園にいる人々や遊園地のコーヒーカップなど、あらゆるものがレコード盤のように回転する様を描いた作品。音楽はアッレサンドロ・モレッリが担当。シュタットガルト・アニメーションフェスティバルのグランプリなどを受賞。スタジオG.D.S.作品。1985年製作、カラー、スタンダード、4分。 <絵画の主題>絵画に描かれた画家が赤いドレスの女に恋をするうちに、数々の名画の中に入り込んでいく様を描いた作品。音楽はジャック・ロヴェラッツが担当。92年上海アニメーション映画祭でグランプリ受賞。スタジオG.D.S.作品。1989年製作、カラー、スタンダード、6分。 <破滅への歩み>ベルリオーズのオペラをバックに、その曲の物語と演奏場面がヴィジュアライズしていく様を描いた作品。ザグレブ国際映画祭クロアチア映画批評家賞受賞、国際アニメーション・フェスティヴァル広島大会入賞。スタジオG.D.S.作品。1992年製作、カラー、スタンダード、4分30秒。 <鹿の一年>狩人に拾われ、猟犬とともに育った鹿の短い一生を綴った物語。音楽はフィリップ・コラーが担当。スタジオG.D.S.作品、ラ・セプト・アルテ/TSR提供。1995年製作、カラー、スタンダード、ドルビー・ステレオ・デジタル、5分15秒。(※スチル写真は「鹿の一年」)
スタッフ
監督、製作、撮影
トニー・ヒル
監督、製作、撮影
ジョルジュ・S
撮影
イヴ・バサール
音楽
フランソワ・クープラン
音楽
J・S・バッハ
音楽
ガイ・ブーランジェ
音楽
ミハエル・ホロウィッツ
音楽
ライナー・ボーシュ
音楽
アッレサンドロ・モレッリ
音楽
ジャック・ロヴェラッツ
音楽
フィリップ・コラー
音楽演奏
A・M・ヘイバーリ
音楽演奏
Boston Symphony Orchestra
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