観世栄夫
夫
体力も性欲も衰えた初老の男が、年若い妻に男を近づけることによって、その嫉妬の刺激から欲求をふるい立たせようとする……。原作は谷崎潤一郎の同名小説。脚本・監督は「四畳半襖の裏張り しのび肌」の神代辰巳、撮影も同作の姫由真左久がそれぞれ担当。
初老の大学教授。彼には美しくて若い妻・郁子がいる。彼は、妻が極めて弾力性に富んだ肉体の所有者なのだが、自分は疲れやすく、妻を満足させていないのではないか、という不安にとらわれていた。そして、妻のとりすました能面のような冷たさを打ちこわし、内に秘めた欲情する性そのものを、表に出そうと激しい情熱を燃やした。彼は、いつの日からか、日記をつけ始め、妻に読まれることを意識して鍵をかけた。ある日、娘・敏子の友人・木村が訪れた。妻と娘と木村の四人でブランデーを飲んでいるうちに、妻は蒼い顔をして席を立った。酔いつぶれた郁子はバスルームに寝ていた。彼は、木村に妻の裸をふくのを手伝わせながら、激しい嫉妬を覚えた。だがその嫉妬の刺激が、性的な衝動、衰えた欲求をふるい立たせる役割を果たしているのを自覚し、これからは木村を利用する事に決めた。以来、妻は、木村が訪れるとブランデーを飲み、酔うと決って裸になり、バスルームで寝こむという習慣が身についた。その都度、彼は木村に手伝わせ、妻の介抱をし、嫉妬し、眠った妻と交わり、その時の気持を日記に記していった。彼は妻の裸を写真にとる事を計画した。妻が酔って寝込むと裸にし、数々の煽情的な写真を最り、撮ることによって自分も興奮し無意識の妻と交わった。彼は木村を疑い、嫉妬しながらも、写真の現像を木村に頼んだ。そんなある日、郁子は書斎に鍵が落ちているのを見つけ、日記と写真に気づいた。だが郁子を矯正しようとする夫の意図にもかかわらず、彼女は日記と写真を見ようとはしなかった。しかし、それを娘の敏子が見てしまった。父を責め、母を詰る敏子。しかし郁子は、夫が自分の若くて美しい妻を、他人に見せて確かめたい気持があったのだと思い、その気持ちは病的だが私には分る、と彼を擁護した。やがて、彼は体力の消耗が激しく、医者は情交を禁じた。外出の度合いが多くなる郁子。彼の頭は性的な事で一杯になった。「直接ニハ私ハ妻ノタメニ死ヌカモ知レナイ。ガ、裏デソウイウオ膳立テヲ仕組ンダノハ敏子ナノダ。私ガ死ンダ後デ、愛スル妻ヨ、私ノヨウナ目ニ会ワナケレバヨイガ……」。郁子、敏子、木村の三人は、何か笑いながらクルポワジェを飲んでいる……。
[c]キネマ旬報社