宮下順子
恩田千秋
昭和四六年から始まった“団地妻”シリーズ。このシリーズで成長した宮下順子と、シリーズの育ての親とでもいう西村昭五郎監督のコンビで、人妻の揺れる官能の世界を描く。脚本は「夕顔夫人」の久保田圭司、監督は「本番 ほんばん」の西村昭五郎、撮影は「嗚呼!! 花の応援団 男涙の親衛隊」の森勝がそれぞれ担当。
霧雨に煙る団地の灯がひとつひとつ消えてゆく。今夜も夫の肇の帰宅は遅かった。せっかくの手料理も冷め、子供たちもすでにベッドの中で寝ており、いままでの騒々しさが、うそのようだ。隣りからは夫婦のSEXの高まりの声が一人寝の女の寂しさに拍車をかけた。恩田千秋。二十八歳。千秋と肇の間にはすでに亀裂が生じていて、肇とのSEXは彼の一方的な欲情処理のためでしかなかった。こんな夫婦間の亀裂は当然のように千秋の心の中に背徳の欲望を植えつけた。ある日、千秋はクラス会に出席し、同級生の園部の誘いを受けた。その時、彼女は異常なほどの高ぶりを感じた。しばらくして、千秋はいつからか降り出した雨の中を歩いていて、白いキャデラックに泥をはねつけられた。すなおにあやまる運転手のジュンの若さと、言葉の華やかさが、千秋の女の性を強烈に刺激した。そして、夫はドイツに出張中ということにして、二人で夕食を食べ、楽しいひとときを過ごした。肇をだますことにためらいを感じながらも、千秋はジュンとの交際を続けた。それは、千秋が久しぶりに味わった女の喜びであったからだ。ある下町の自動車修理工場。ここで働く新米工員、実は彼こそがジュンであった。ジュンも千秋への思いがつのるに連れ、嘘をついている自分がつらかった。彼の兄貴分の相良の彼女・マキは以前からそんなジュンをねらっていた。そして、強引にジュンを連れ出し、惜しげもなく自分の痴態を見せるが、千秋との関係を知り逆上し、その怒りを相良にぶつけた。相良の逆憐をかったジュンは部屋を追い出され、やけを起こし工場から車と金を盗んで逃亡。このニユースを知った千秋は、約束の場所へと急いだ。そして二人にはもうなにも秘密などなく、悦楽の中を二人でさまようかのように楽しむのであった。
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