岸田森
歌暦
世界に宣伝された浮世絵師、喜多川歌磨を主人公に、その浮世絵のように爛熟し花開いた江戸文化のなかに、実在・虚構の人物を、さながら群舞の如く配して、彼らの愛と夢の交錯するさまをエロティックに描く。脚本は実相寺昭雄と「新・団地妻 夫婦交換」の武末勝の共同、監督は「あさき夢みし」の実相寺昭雄、撮影は中堀正夫のそれぞれが担当。125分に再編集したR-18版も有。
寝静まる江戸の夜。飛騨屋の蔵から、逸品の茶碗が盗まれた。壁にはただ一字“夢”と書き示されていた。江戸っ子の喝采を浴びている“夢の浮橋”の犯行であった。狂歌仲間の蔦屋重三郎、燕十、風来山人、田沼意次、そして歌磨は、料理茶屋に踏みこんできた役人から“浮橋”をかくまってやった。礼を云い去っていく“浮橋”に歌磨は鮮やかな印象をもつ。ある日、浅草奥山の人混みのなかで歌磨は騒ぎに巻きこまれ、役人に囲まれたところを立役者市川団鶴に救われる。歌磨は市川団鶴が“浮橋”に似てると思った。女が描けず考えこむ歌磨に、燕十と風来山人は交合図を覗かせようと吉原に連れこむ。そんな時、同じ吉原で、丹後守と宗兵衛によって“田沼失脚”の陰謀が画策されていた。ある日、歌磨は高貴で美しい女性に出会う。あの美しさを描きたいと念ずる心とは裏腹に、筆はいっこうに進まない。思い余った歌磨は町から乞食を連れ帰えり、彼に女房のお奈津を襲わせた。歌磨は蒼ざめた表情で筆を手にしたが、やるせない思いで、外に飛び出した。夜道をふらつく歌磨に、いつか、浅草で出会ったお涼が声をかけた。歌磨は誘われるまま、その夜お涼を抱いた。翌朝、家に戻ると、お奈津の姿は消えていた。季節はいつしか夏へ変わる。ある日、浮橋を手引きしたおそのが掴まる。役人のむごたらしい責めを受けながら、男への愛を語るその姿は、歌磨に衝撃を与えずにはおかなかった。天明六年、田沼意次失脚。世の中はあわただしく変っていく中で歌磨の絵は世間に認められ、人気を高めていく。そんな時、歌磨は写楽の絵に出会い、深い衝撃をうける。歌磨は、何かを探すように旅に出た。お奈津との再会、北斎と名のる絵師との出会い、旅は歌麿に人生を悟らせた。そして江戸に帰った歌磨を待ちかまえていたのは、風俗・文化を厳しく統制する寛政の改革であった。浮世絵は焼きすてられ、歌磨は処罰を受けた。そんな時、江戸に大火災がおこる。買占めた材木で一儲けを企む桧前屋と丹後守が付火をさせたのだ。酒を酌み交す二人の前に、憎悪に燃える“浮橋”が現われ、二人を斬りすてる。“浮橋”それはまさしく、団鶴であった。牢から放り出された歌磨が変りはてた江戸の町を行く。だが、町行く人々の喧騒はきょうも変らない。夢を捨てきれぬ歌磨は噛みしめるように歩く。そして、歌磨は、しだいに人混みの中にかき消されていった。それは、歌磨が描く自分自身の浮世絵に似て、どこか、夢への旅立とも思える姿であった。
歌暦
嶺山月
蔦屋重三郎
田沼意次
風来山人
源太
赤石丹後守
佐野善左衛門
影師申吉
松平定信
摺師万平
北斎
郡主膳
乞食
橘左近
桧前屋宗兵衛
志水燕十
お千佳
大奥老女
巫女
沢乃井
夜鷹
お志麻
おふみ
お美代
おその
朱雀
お奈津
お涼
市川団鶴・夢の浮橋
監督、脚本
脚本
製作
撮影
音楽
美術
美術
編集
照明
録音
録音
助監督
助監督
製作主任
スチル
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