大森博
城山槙夫
東京を脱出して、放浪の日々を送る青年と太宰治を生んだ“津軽”の風土を描く。脚本は小林竜雄、監督は吉留紘平、撮影は長沼六男がそれぞれ担当。
二十三歳の槙夫は友人、貞司の故郷、青森県の小泊に家出した。家出をそそのかしたのは槙夫の存在をこころよく思っていない父の愛人の麻耶である。家出の旅の途中、東北の森の中で野宿した時、歪んだ性意識を持つ貞司に愛情を告白され、迫られた槙夫は、恐怖のあまり、彼の頭をジャッキで叩いてしまった。いったん逃げた現場に戻ると、貞司の躰は既になかった。二週間後、槙夫は弘前に住む親戚の不動産屋、井沼の家に身を寄せたが、貞司のことが気になり、小泊に向かうのである。しかし、貞司はどこにもいなかった。貞司を殺してしまったのではないかという思いが強まった。そこで槙夫は、五所川原で、子持ちの中学校教師、あや子と同棲している速水のアパートに転り込んだ。やがて、あや子は槙夫と一緒に速水のところから出ていくが、彼も二人を咎めなかった。そして二人は、青森にある井沼の愛人、豊子の小料理屋に往みこむのであった。その青森で、貞司の妹と思える繭に会った槙夫は、彼女の兄代わりに生きようと決意するのである。繭は槙夫と体の関係がないことに不満であった。そんなある日、槙夫が外出から帰って来ると、ちょうど速水が繭を犯しているところで、繭も拒んでいなかった。槙夫は奈落の底に落ちる思いだったが、彼女のことは責めなかった。槙夫は自暴自棄になって町から出ていくのである。彼は自分の体をダメにしたかった。そして、ある女医を通じて、モルヒネを射ち始めるようになった。彼の体は徐々に衰弱していくのである。一方、繭もガス自殺を企てるが、幸いそれは未遂に終る。しかし、彼女の眼差しは槙夫への絶望感がにじみでていた。ある雪の降る日、槙夫はボロボロの体を引ずって速水のアパートに行った。速水は隠していた胃癌が悪化し、血を吐いていた。そして、彼を看病しているのはあや子であった。もう槙夫のいる場所はどこにもなかった。
城山槙夫
城山草一
磯野貞司
磯野繭
磯野和子
速水康彦
あや子
豊子
井沼
由香里
真山
老人
アナウンサー
男
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