高倉健
川又辰五郎
人情の機微を巧みに盛りこんだ高倉健の魅力。脚本は「新兄弟仁義」の大和久守正、監督は「博徒一家」の小沢茂弘。撮影は「極悪坊主 念仏三段斬り」の山岸長樹が担当。
川又辰五郎が兄貴分にあたる泉熊太郎を傷つけて、熊太郎の妹おゆきと駆け落ちしたのは昭和初期の厳しい真冬のことだった。辰五郎とおゆきは、各地の高市を廻りながら、苦楽をともにした。そして二年後、港の見えるある小さな町に身を落ちつけた二人は、一郎という息子をもうけていた。二人のうえに、ある日突然不幸が襲った。おゆきが喀血したのである。思いあまった辰五郎は、土地の親分万清屋源造に金策を願い出た。万清屋は、心よく金を貸し与え、辰五郎を勇気づけた。だが、まもなくおゆきは、息をひきとっていった。短い生涯だった。男泣きに泣き崩れる辰五郎。小料理屋の仲居お島が、女らしい心づかいで辰五郎と一郎の世話をやいた。やがて、万清屋の好意で一家のやっかいになることになった辰五郎の長屋に、お島の足繁く通う姿が見うけられるようになり、おゆきの死の悲しみも次第に薄らいでいった。そのころ旅に出ていた、熊太郎が一宿一飯の恩義から、万馬一家の親分を斬って、この町に流れてきた。万清屋の一人娘お絹から急を知らされた辰五郎は、一郎のため逃げようと決心するが、万馬一家の追手に襲われる熊太郎に助勢する。熊太郎は辰五郎になお対決を迫ったが、万清屋の仲裁で、その場は収まり、辰五郎は一郎と旅に出た。一方、万清屋一家の縄張りを狙う士地のヤクザ石田一家は、その魔手をのばしていた。石田一家に草鞋をぬいだ熊太郎は、石田に命じられるまま、万清屋と代貸の定次を斬った。旅から帰った辰五郎は部屋の空気にお島の思いやりを痛く感じた。そして、万清屋の闇討ちを知り、仇討ちを決心する。やがてドスをかまえて対する辰五郎と熊太郎。二人を囲む石田一家。しかし、人質となった一郎の姿に妹おゆきの面影をみた熊太郎は思わずドスを石田一家に向け、自分も死んでいった。熊太郎の葬式をすませ、どしゃぶりの雨の中をひとり石田一家に殴りこんだ辰五郎の怒りに狂ったドスは、嵐のように躍った。
川又辰五郎
おゆき
お島
泉熊太郎
万清屋源造
定次
お絹
一郎
石田常平
良平
伊助
仙三
孫八
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