里見京子
少女
今日は一年のおしまいの日、おおみそかです。「マッチはいかがですか、マッチを買って下さい。」寒い街角で、一人の少女がマッチを売っていました。古びた肩掛けにスカート足には大人の古い上ばきをはいています。前かけにはマッチをたくさん持っていました。道行く人たちに呼びかけても今日はみんな忙しそうに通りすぎるばかりで、誰もマッチを買ってくれません。お正月の準備で少女に目をとめるひまがないようです。少女は道を横切ろうとした時、走ってきた馬車をよけようとして、はいていた上ばきをなくしてしまいました。日はすっかり暮れて雪が降り始めました。もうどの子も家に帰ってあたたかい晩ごはんを食べているのでしょう。明るい窓からおいしそうな匂いが流れてきます。けれど少女は家に帰ろうとしません。マッチが売れないとこわい父親からひどく叱られるのです。少女は寒さのために一歩もあるけません。夜はふけ、街は、次第に暗くなります。少女はマッチを一本抜きとり、壁にこすりつけます。明るい炎が、ほっと広がりました。
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