渡哲也
石津文三郎
狼のように孤独で凶暴な男が、真摯に女の愛を求め、真の愛を実の妹に見いだし、必死に耐えて生きてゆく姿を描く。原作は、立原正秋の同名小説の映画化。脚本は「昭和やくざ系図 長崎の顔」の池上金男。監督は「追いつめる」の舛田利雄。撮影も、同作の小杉正雄。
石津家は鎌倉にあった。退役した少将である当主の武一郎は老後を広大な邸宅で、後妻の雪子と、その間にできた千代子の三人で暮していた。彼の先妻は四人の子を残して早死していた。上の三人は固苦しい父と女中であった雪子を嫌い石津家を出ていた。末弟の文三郎だけが雪子たちを暖かい眼で見、武一郎と心のつながりを持っていた。文三郎は、生来の激しい気質に加えて、父から剣の心と古武士のような生き方を受けついでいたが、大学時代に傷害事件を犯し、学園を追われ、今は酒と女と喧嘩の毎日を送っていた。バー「ポインセチア」のママ、冬子は、そんな文三郎に心を引かれるのだった。ある夜、文三郎はバーでやくざと喧嘩し警察に留置される身となった。そこで親友の宮尾刑事と再会し、彼は手を尽して示談に持ち込んでくれた。示談金は冬子が払った。石津家に帰った文三郎に、千代子は自分の指輪を差し出し、冬子に金を返すように迫った。千代子は文三郎の留置中に冬子に兄と別れるように頼んでいたのだ。文三郎は、無頼仲間の金太と仙公に金の工面を頼み、冬子を訪れた。冬子は文三郎の薄情をなじり、云ってはならぬ事を口にした。「妹さんが好きなんでしょ!冬子の頬に文三郎の手が飛んだ。冬子の言葉は彼の胸に深く突き刺った。そんな時、「ポインセチア」のホステス、裕江と知り会った。彼女には服役中のドス健というひもがいたが、傷ついた文三郎と裕江は求めあうのだった。ある日、淀野組々長が、文三郎に会いに来た。仙公が工面した金は淀野組からくすねたものだったのだ。返済の為、横浜の賭場に行った文三郎は、持ち前の精神力で見事大金を稼ぐ。このような文三郎の生活を知った武一郎は、家にもどった文三郎を激しく叱責した。文三郎はそんな父に云った「あなたは高潔に生きてこられた。だがその為に人間らしさを失なわれた。お互いに泥水を呑んでいたわり合ってこそ人は愛で結ばれるのではありませんか」。その夜、千代子は文三郎に愛の告白をした。「それは未来永劫許されぬ事だ。千代子は地獄の花を咲かせたいのか」文三郎は必死に、その愛に耐えた。やがて武一郎が死んだ。遺言には全ての遺産を雪子と千代子に相続させ後見人に文三郎を立てていた。ドス健が出所して、裕江の決着をつけに文三郎に会いに来た。林の中でのドスと刀の戦いは簡単に決まった。文三郎は傷ついたドス健と見守っていた裕江に「こんなに惚れた男がいるんだ、仲よく暮しなよ」と云い残しその場を去っていった。相模湾を見下す崖の上で、文三郎は壮大な落日を見た。真紅の空と、血の滴りのような海の中に向って文三郎はつぶやいた。「地獄に咲く花……きっとこんな色だろう……此の血の色を千代子に見せてはならないのだ……」
石津文三郎
石津千代子
石津武一郎
石津雪子
石津信一郎
石津幹次郎
石津勢伊子
五代冬子
佐野裕江
宮尾
淀野元太郎
ドス健
金太
悠三
仙公
賭場の女
泣虫
監督
脚本
原作
製作
撮影
音楽
美術
編集
照明
録音
助監督
企画
スチール
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