サリー・メイ
お万
人を殺して刑務所で三年--落ちぶれ果てた、らしゃめんお万の姿が、長崎の石だたみにあった。異常なまでの突っかけるようなコマの張り方に一同は驚きの眼を見はったが、それも束の間、壺振りの半次とのサシの勝負で無一文、果ては三百円の借金を背負ってしまった。イカサマと判っていてもどうしても見破れない。「イカサマも技のうちだ。悪いが約束通り抱かせて貰うぜ」半次の下にジッと横たわる裸身のお万は、やがて啼ぎのけぞっていった。その日からお万は稲荷組の賭場で壺を振った。その艶姿と手さばきが評判となり賭場は賑わっていった。客の一人影安は片肌脱ぎのお万の姿をくい入るように眺めていた。稲荷組にお秋が現われた。久し振りの再会を喜ぶお万へのお秋の知らせは、お菊が悪い罠にひっかかり品川の女郎に落ちているということであった。お万は中盆の留吉を強請った。留吉は勘助親分の女房お時とできており、勘助殺しの機会を狙っていたのだ。しかし駈けつけた子分たちに取りおさえられたお万は留吉の獣欲に乱され、薬液で眠らされた。願いが叶えられた彫安は、お万の背に刺青を打つ、彼の針がお万の雪の肌の上を走ると鮮やかな吉祥天女像の白播画が浮き上がっていく。お万は痛みの中で泣き声のように呻いでいた。「想ってるよ。ニッピンの入……観音さま……」離れの小部屋に監禁されたお万はお秋に救われ、お菊を探しに品川へと急いだ。その夜、親分の勘助が暗闇からはなたれた銃弾で殺された。お菊は品川にいなかった。二ヶ月前に小諸へ移されたという。やっとのことで探し当てたお菊は全くの別人だった。その夜、山道でお万は、二人の男に呼び止められた。銀次と辰、二人は留吉から送り込まれた刺客だった。銀次に続いて辰がお万にむしゃぶりついた。失神したお万の裸の背に白刃が回ったとき、突然歓声と火花がさかまいた。悶えるお方の柔肌を優しく愛撫する男の手……月明りが、お万の吉祥天女像に折り重なるニッピンの骰子の観音菩薩像をおぼろに照し出していた。伊香保の宿でお秋と会ったお万は、夜の露店風呂で人買いに連れられた静江という若い女にお菊の面影を見た。静江はお菊だった--姉妹を名乗り合うお万の背中で吉祥天女像が何故か淋しそうに揺れていた。遂に稲荷組の親分に居据っている留吉と女房のお時にお万、お秋の怒りが爆発した。刀を振るって料亭にのり込んだ二人が留吉を追いつめる。と、背後から銃声が聞こえた……。
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