かしわ哲
村松オサム
劇画、アニメーション、イラストなどの分野で、特異な才能を振るい、独自の世界を拓いて来た林静一が映画という表現分野に挑戦した第一作目である。
十数年ぶりに出会った幼ななじみのオサムとレイ子の間に、なつかしさ以上の感情が芽生えた。小沢という中年の男に嫁ぎ、母を養ってもらっているレイ子は、その負いめを振っ切るかのように、貧しい印刷工のオサムの一途な愛に応えていく。二人のつつましい生活が始められた。だが、小沢も、レイ子の母すらも、燃え上ったレイ子の愛を認めようとはしない。とまどい、ためらうレイ子に焦らだつオサム。やり場のない二つの感情が、ぶつかり合い、二人は大喧嘩をしてしまう。オサムの部屋を飛び出したレイ子は、相談にのってくれたオサムの友人の信広に、酒の酔いも手伝い、やけくそ半分に身を委ねてしまう。小沢、母親、オサム、そして信広への思いが、レイ子の胸で激しく、ひしめき、うずまく。そんな関係から、はじき飛ばされたように、オサムは自ら命を絶ってしまう。オサムの死が何もかも無と化してしまった空虚な世界。何事も起らず、何も変わりはしなかったかのように、レイ子が街を歩いている--。
村松オサム
田島レイ子
池田信広
田島文子
小沢義治
工場の主人
飲み屋のママ
幼女の頃のレイ子
事務員の女
公園の男
アパートの住人
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