梢ひとみ
戸田しの
それぞれ違った環境で育った双生児が、運命のいたずらによって巡り合い、愛し合うようになってしまった……名誉を重んじる封建時代の人間模様を浮き彫りにする。脚本は「戦争を知らない子供たち」の大和屋竺、監督は「不良少女 野良猫の性春」の曽根中生、撮影は「恋の狩人 欲望」の森勝がそれぞれ担当。
大正時代。侯爵桂川実篤は財界にも知られた大物だったが、子宝に恵まれなかった。妻・綾子は、夫が妾を囲うようになると、半ば公然のように若い男と浮気をするようになった。やがて、実篤が強引に妾にした、彼の護衛役・藤堂貞之助の恋人・戸田しのが実篤の子を宿した。しのは間もなく、男と女の双生児を生んだ。男の子は桂川家に引きとられ、女の子はしのと共に姿を消した。それから十九年が経ったある日、藤堂はしのからの手紙を受け取った。彼は、しのの許へ急行したが、再会を喜ぶ間もなく、しのは息を引きとった。しのの娘・鏡子は藤堂のもとで暮すようになった。ある日、鏡子は、娼婦になりたい、と言って藤堂を驚かせた。彼女の突飛な考えに、藤堂は綾子の看視を厳しくしたが、彼女は、春栄楼で娼婦として働きはじめた。一度は説得に行った藤堂だが、彼女の決意の固いことを知り、諦める。数ヵ月過ぎて、鏡子が同僚の菊江の客をとったことから大騒ぎになり、このことを機会に、鏡子は娼婦から足を洗った。平隠な日が過ぎて、ある日、鏡子は桂川浩義という青年と知り合った。運命のいたずらが、双生児の二人を引き合わせたのだが、勿論、二人は、互いが双生児という関係であるとは知らない。ある日、鏡子は浩義の招きで、桂川家へ遊びに行った。実篤は、鏡子の姿を見て、若い頃のしのに生き写しなので驚く。早速、藤堂のもとへ使いを走らせる一方、鏡子を消そうと計るのだった。実篤が放った刺客から、鏡子を守ってやった藤堂は、決心して、初めて鏡子に出生の秘密を告げた。鏡子は何を決心したのか、単身桂川家へ乗り込んでいった……。
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