有馬稲子
母
平林良孝のベスト・セラーの映画化で、「笛吹川」の木下恵介が脚色し、「伊豆の踊子(1960)」の川頭義郎が監督した叙情編。撮影は「明日はいっぱいの果実」の荒野諒一。
二年生の平井良行が通学している福井県武生西小学校が、日本一の健康優良学校に選ばれた。良行の父は計理士で目下病気療養中、母が仕立物や店の帳簿つけで一家の生計を支えている。良行は次男で兄の良久は二つ年上だ。文化の日に、兄弟は母と街に出た。母は父の生家を教えた。それは立派な門構えの家で、父が病気になってから今の家に移ったのだ。母が懸命になって働く姿をみるたびに、良久も良行も早く大きくなって楽をさせたいと思った。良行は詩や作文を書くのが好きで、折にふれて父母や家のことを書きつづけた。寒い冬になった。良行はクリスマスに古釘を拾って集めた金で母に湯タンポを贈った。雪おろしも兄弟でやった。風邪をひいた兄弟のところに、二人の大好きなおばばがお菓子やお餅を持ってきてくれた。そしてお年玉もくれた。冬が過ぎて春がきた。父の病気は悪くなるばかり、入院することになり二人に模型飛行機を作ってくれた。母と三人でお花見に行った。夏になり、お祭りがやってきた。父の病気ははかばかしくない、母はもしものことがあっても……と二人に言ってきかせた。良行の書いた「母を讃える作文」が福井県知事賞に決ったと、土谷先生が知らせにきた。母は涙を流して喜んだ。県庁で表彰式があって間もなく、父が危篤になった。良行は賞品の時計を父の枕元においた。父は死んだ。三年前、父と一緒にきたお寺で葬式をした。「とうちゃんが死んでも淋しくない……とうちゃんはいつでもぼくらのからだの中に住んでいるんだ」--良行は兄と一緒に母を助けて元気に生きぬく決心をした。
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