田宮二郎
加宮恭介
白井更生と「サラリーマン権三と助十 恋愛交叉点」の若尾徳平が共同で脚本を執筆、「家庭の事情」の吉村公三郎が監督した風俗ドラマ。撮影もコンビの小原譲治。
週刊ジャーナルの記者、加宮は、戦後十七年の原爆記念特集号取材のため広島へ出張した。しかし、原爆の傷痕は、今や原爆資材館の陳列ケースの中にしかない。一夜、加宮は親友の菊田に誘われてバー「オータム」へ行き、美貌のマダム秋子を紹介された。彼女の顔には何か憂いがあった。翌日、加宮は六本指の赤ん坊取材の途中秋子に逢った。話が取材のことになった途端、何故か秋子の態度は、よそよそしくなり足早に去った。赤ん坊を生んだ母親はいなかった。その帰途、彼は「オータム」に寄ったが、秋子はいなかった。加宮は原爆の取材を断念し、東京のデスクへ連絡した。東京へ帰る切符を買った加宮だが、何か去り難く「オータム」を訪れた。そこで金子が秋子に借金しに来たことから、彼女と口論になった。加宮が割って入り、金子と争う破目になった。加宮が酔ってホテルへ戻ると、秋子が待っていた。二人は太田川の畔に佇んだ。「あなたは本当に淋しい人なんだ」加宮の呟きに、秋子は小石を拾って彼に渡した。握れば砂になってくずれた。原爆にあった小石である。二人は川岸の旅館で向い合った。加宮はもっと秋子を知りたかった。加宮は秋子を抱いた。あえぎながら彼女は顔をそらし「あなたは、あたしを知らない」と、いきなり自分の胸元を開いた。秋子の肌に原爆の爪跡があった。乳房も見分けられぬほど、ひきつっていた。女学生だったあの日、原爆に遭ったのだ。「私はさっきの太田川の石なんです……」加宮の心は熱くなった。そして彼女を強く抱きしめた。秋子の両眼から涙があふれた。彼の胸に顔を埋め、うめくような慟哭が続いた。「ぼくの愛情を踏み台にして生きられるだけ生きてくれ」。という加宮の言葉に秋子は始めて女の幸せにひたることが出来たのだが……。
加宮恭介
早島秋子
菊田吾郎
金子
種田
多津子
和代
芳子
金子の友人A
金子の友人B
田村ふさ子
細川
卓造
ふみ
初老の患者
自衛隊員
バーテン
ホテルのボーイ
ホテルの客
寝台車の女
新しいマダム
食堂の女給仕
[c]キネマ旬報社