乙羽信子
母
「華岡青洲の妻」の新藤兼人がオリジナル・シナリオを執筆し、監督も担当した。平安期に時代をとった妖怪もの。撮影は「性の起原」の黒田清巳。
相次ぐ戦乱に荒廃した平安中期の京。一軒の貧しい民家に住む若い娘と母親が、落武者の暴力を受け、家もろとも焼け死んでしまった。羅城門に妖怪が現われるようになったのはその時からである。幾人もの侍が、毎夜、毎夜、深い闇の中から現われた美女について行ったあげく、翌朝、喉を食いちぎられて発見されたのだ。その頃、敵の大将の首をとった百姓の出の薮ノ銀時が、頼光の股肱の輩下に加わった。銀時は母と嫁に自分の武将姿を見せようと我が家に帰ってみたが、彼を待っていたのは無残な焼跡だった。母も妻もいなかった。やがて銀時は頼光から、妖怪退治の命を受けた。夜の羅城門の近くで、白い袿の女が現われ、導かれるまま銀時は女の家に入った。そこには女の母が待っていた。彼は驚いた。若い女は自分の妻に、その母はやはり自分の母にそっくりだったのだ。だから銀時に妖怪退治ができようはずはなかった。その夜から、銀時は妖怪に思慕の情をつのらせていき、若い妖怪もまた、銀時への慕情に身をさいなんでいた。だが、会うことは許されなかった。母と娘の霊魂は、酷い仕打ちをした侍の生血をすすることを天地の魔神に誓い、その約束で現世の姿をかりることが出来たからである。それでも若い女は羅城門に現われた。銀時は狂喜した。二人の抱擁は狂おしくつづいたが、七日間が過ぎた時、女は消えていた。誓いを破った女は地獄へ落ちて行ったのだ。残された母は、それを哀しく思いながら、侍の生血をすすることに執念を燃やした。銀時は頼光に責められ、いよいよ決意に迫られた。ある夜、母の顔に怪猫の姿を見た銀時は太刀を振るって、腕を斬り落とした。それはみるみる千年の歳を経た黒い怪猫の前脚になっていった。銀時は物忌みをするよう七日間の蟄居を命ぜられた。その時、銀時は計られて前脚を母に奪い返されてしまった。前脚は猫の武器なのだ。狂ったように闇の中を追う銀時、しかし彼は翌朝、雪をかぶって死んでいた。彼の周りを、一匹の黒猫が悲しそうに鳴きながらまとわりついていた。
母
嫁
彼(薮ノ銀時)
頼光
頼光の輩下A
武将
輩下A
輩下B
輩下C
クマスネヒコ
美女A
美女B
美女C
農夫
検非遺使A
検非遺使B
ミカドの声
[c]キネマ旬報社