市川雷蔵
追分の伊三蔵
村上元三の原作を、「若親分千両肌」のコンビ、直居欽哉が脚色し、池広一夫が監督した時代劇。撮影は「悪名十八番」の今井ひろし。
これは中年のやくざ孫八が語る話である。孫八はひょんなことから、追分の伊三蔵と知り合った。同じやくざだが、孫八は伊三蔵という人間に、一目会った時から興味を覚えた。人斬り伊三と呼ばれる兇状持ちの上、親分なしの子分なし、まったくの一匹狼である伊三蔵には、何か暗い影があるのだが、孫八には“本もののやくざ”とうつった。旅から旅への渡り鳥である二人が、再び会ったのは上州の坂本宿。たまたま孫八はやくざになりたての半次と共にある一家に草鞋を脱いだが、そこに伊三蔵も客になっていたのだ。伊三蔵は博奕にも強く、剣の腕も確かで、追われる者特有の油断のない身構えが周囲の者を威圧していた。半次はそんな伊三蔵にすっかり、魅せられてしまった。翌年の春、孫八は三州のある花会で伊三蔵と三度目の出合いをした。この土地の人間と伊三蔵は、何か因縁があるようだった。小料理屋の酌婦お沢は伊三蔵のかつての女だったという。間もなく分ったことだが、伊三蔵は、郷士上田家の奉公人だった。それが跡取娘由乃と愛しあい、由乃が身篭るまでになったが二人の関係が知れると、酷い別れ方をさせられたのだ。しかも、由乃の従兄平沢は、伊三蔵を斬ろうとさえしたのだ。こうなると、由乃もあえて駆落ちしようとはしなかった。それ以来、伊三蔵は剣の腕を磨き、女も信用しなくなり、兇状持ちのやくざになっていった。伊三蔵が再びこの土地に姿を現わしたのは、由乃と子供の由乃助が幸福に暮しているかどうか見たいためだったのだ。今、由乃は仕立物をしながら由之助を学者にするべく、ひとり身を守っていた。だが、平沢は、再び伊三蔵を斬ろうと計り、由乃と由之助を人質にして伊三蔵をおびき出した。悽惨な戦いだった。伊三蔵が平沢を斬ったとき、自分自身も重傷を負っていた。しかし、伊三蔵は誰の手もかりず、黙って歩き去っていった。それ以来、孫八は伊三蔵に会っていない。だが、孫八は、伊三蔵が生きていて、どこか旅の空を流れているに違いない、そう最後の言葉を結んだ。
追分の伊三蔵
上松の孫八
由乃
半次
お沢
平沢清市郎
新茶屋の吾六
由之助
お美代
上田吉馬
秋尾
多賀忠三郎
斉藤逸馬
鬼頭一角
荒神の岩松
清滝徳兵衛
与左衛門
お松
伝七
石太郎
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