中村嘉葎雄
矢島敏夫
「がんばれ!盤嶽」の新藤兼人のオリジナル・シナリオを「少年漂流記」の関川秀雄が監督した「大いなる旅路」の姉妹編で、東京-長崎間の特急さくらを舞台にしている。撮影も「少年漂流記」の仲沢半次郎。
東京--長崎間を驀進する特急さくら。専務車掌の松崎義人、列車給仕の矢島敏夫、食堂車のウェイトレス松本芳子らの乗務員、そして種々の乗客をのせて、列車は今日も長崎めざして驀進する。発車まぎわに慌しく乗り込んだのは矢島の恋人望月君枝だった。結婚するには列車給仕などしていられない、という矢島を君枝は必死になだめた。矢島を秘かに愛する芳子は二人の姿を淋しく見ていた。富士川鉄橋を渡る頃、車内巡視に廻った矢島は客の時定から殺人犯の同乗を密告された。殺人犯の七郎は静岡駅で逮捕された。京都近くで車内に盗難事件が発生した。すりのカメレオンの松の仕業らしかった。真夜中、列車は大阪駅に到着した。プロ球団の選手たちが下車し、血清を抱いた看護婦森原数子とサブという青年殺し屋が乗車した。発車間ぎわ、風速四〇米という台風襲来のニュースが入った。豪雨の中を驀進するさくらの中では、乗客の一人、炭坑主の吉田が自殺を図った。医者が岡山駅からかけつけ、命は助かった。台風は瀬戸内海沿岸に上陸し、松崎は間もなく前方に崖崩れを発見した。急停車する列車、松崎は騒然たる乗客をなだめると、シャベルを抱えて風雨の中にとび出した。乗務員も続いた。半ばふてくされて、とび出そうとしない矢島を、松崎は殴打した。崖崩れに埋もれた鉄路を救おうとして、必死に努力する人々の姿をみる矢島の胸底には、忘れていた感動がよみがえった。彼もシャベルをつかんでとび出した。君枝も、芳子も、数子までも鉄路の泥と闘った。何時間か後、さくらは再び驀進した。徳山駅では、下車した駈け落ちの男女が、迎えに出た男に叱咤されていた。下関で事件が起きた。殺し屋時定が、殺し屋サブにめった斬りにされたのである。七郎の復讐らしかった。カメレオンの松は、台風と闘う鉄道員の姿に心を打たれたといって悔悛した。終着駅長崎はもうすぐである。君枝は矢島に鉄道員としての誇りを自覚させたことが嬉しかった。松崎が二人の仲人をするという。二人の前途を祝福するかのように、さくらは終着駅長崎にすべり込んだ。
矢島敏夫
松崎義人
望月君枝
松本芳子
森原数子
政党幹部
秘書
カメレオンの松
時定
七郎
サブ
山本年子
駆け落ちの男
駆け落ちの女
炭坑主吉田
医者
新郎
新婦
駈け落ちの男の兄
年子の姉
太った男
公安官A
公安官B
峰岡
立花
石川
運転車掌
当直助役
保線係
岡山駅長
機関士A
機関士B
コック
マネージャー
食堂ガールA
食堂ガールB
大阪医大の事務局員
長崎医大の事務局員
政党大阪支部員
機関助手
途中の駅長
列車給仕
[c]キネマ旬報社