京マチ子
瀧の白糸
明治文壇の巨匠泉鏡花の原作から「西鶴一代女」の依田義賢が脚本を書き、「愛染橋」の野淵昶が監督し、「西陣の姉妹」の宮川一夫が撮影を担当している。なお衣裳考案を閨秀画家梶原緋佐子が受け持っている。主演は「長崎の歌は忘れじ」の京マチ子と「武蔵野夫人」の森雅之で、他に星美千子、進藤英太郎、羅門光三郎、浪花千栄子、殿山泰司などが助演している。
北陸地方の夏場の巡業で、評判の美貌の女水芸師瀧の白糸は、ふとしたことから知り合った貧乏な青年村越欣彌が法律の勉強を志していることを知って、自分が学資を仕送る約束をした。欣彌は一旦断ったが、白糸の純真な心に動かされて好意を受けることにした。男まさりの彼女も、欣彌に対して恋心を抱くようになっていたのだ。秋から冬にかけて収入のない時は、日頃仲の悪い出刃打寅五郎と一座してまで、彼女は欣彌に仕送りを欠かすまいとした。この巡業で白糸は大阪に行き、京都で勉学中の欣彌と短い逢瀬を楽しんだが、一座の金主松永から妾になれと言われたため、寅五郎一座とも別れることになった。それ以来三年、時には虫下しの行商をしたり、妹分あやめが応援してくれたりして、白糸は無理な仕送りを続け、欣彌が立派に任官する日を迎えた。欣彌からはご恩返しをするなどということでなく、白糸を妻に迎えたいと言ってきて彼女を感涙にむせばせた。が、それも束の間、白糸が欣彌の任官の支度に金策した金を寅五郎に盗まれた上、松永に無理に口説かれそうになったので、白糸は寅五郎の残した出刃で松永を刺し殺した。この殺人の嫌疑が寅五郎にかかったが、新しい検事代理として法廷に立った欣彌からの訊問に、白糸はすべてを告白、罪に服することになった。その白糸に、欣彌は彼女との婚姻届を届けてやるのだった。
[c]キネマ旬報社