市川段四郎
中山安兵衛
「生きる」の本木莊二郎が製作に当り、長谷川幸延の雑誌『平凡』掲載の原作から「霧の夜の兇弾」の松浦健郎と「母を恋う歌」の山崎謙太が脚色し、「やぐら太鼓」の滝沢英輔が監督に当っている。撮影はやはり「やぐら太鼓」の会田吉男である。出演者の主なものは、「四十八人目の男」の市川段四郎、「トンチンカン三つの歌」の榎本健一に関千恵子、その他ニュー・フェースの田代百合子や浜田百合子、山茶花究、中村是好、内海突破、坊屋三郎、益田キートンなどである。
越後の国新発田の藩で御前試合を前にして中山安兵衛と俵星玄蕃はその馬鹿らしさを痛感して、脱藩、江戸へ出て来た。安兵衛は八丁堀の通称「喧嘩長屋」に住みついたが、喧嘩が何より好きな長屋の連中に、喧嘩嫌いの安兵衛はあまり人気がなかった。しかし、占者梅柳の一人娘お光だけは彼に想いを寄せていた。ある日、高利貸の武士寺島主水に難題を吹っかけられている水茶屋「芳野」の娘お照を、長屋に住む籠かきの助十と権三が助けてかえって来たことから安兵衛がのり出して主水にかけ合いに行くが、返ってお照の身の代金十三両を都合しなければならないことになってしまった。思い余って叔父の菅野六郎右衛門をたずねて快く十五両の金を借りた安兵衛は、叔父が村上兄弟に仕官にからまる遺恨で果し合いをつけられているとは知らず、旧友玄蕃と久しぶりに酒びたりになっていた。そこへお照とお光までも主水の一味にさらわれたとの報せに駆けつけ三人を救い出し、又しても居酒屋へ戻って呑み明かした。翌日昼頃やっと長屋へ帰った安兵衛は叔父と村上兄弟の果し合いが高田馬場であるときいて駆けつけるがすでに遅く叔父は殺されたあとだった。しかし村上兄弟を斬って叔父の恨みを晴らした。このとき切られたたすきの代りに腰ひもを貸してくれた堀部弥兵衛の娘美弥の婿となって、遂に安兵衛は長屋を去ることになった。喧嘩に強かった安兵衛に長屋の連中は悲しい別れを告げた。なかでもお照とお光は特別に悲しいのであった。
中山安兵衛
俵星玄蕃
お光
お照
仕立屋銀次
女房お北
孫太五郎源七
占者梅柳
権三
助中
そば屋与三
女房お富
おキン婆さん
菅野六左衛門
堀部弥兵衛
娘美弥
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