佐分利信
杉守修三
東京プロと新東宝との提携による作品で、製作は星野和平と佐野宏の共同。脚本は「現代人」の猪俣勝人が執筆、佐分利信の「風雪二十年」に次ぐ監督作品である。撮影は「黎明八月十五日」の藤井静。出演者の主なものは、「お茶漬の味」をあげた佐分利信、木暮実千代、笠智衆、三宅邦子、「東京のえくぼ」に出演した文学座の丹阿弥谷津子、俳優座の研究生から抜てきされた阿部寿美子、「大学の小天狗」の三橋達也などのほか千田是也、徳大寺伸、吉川満子、北林谷栄などである。尚、この他、青山杉作、東野英治郎、小沢栄、永田靖、東山千栄子、村瀬幸子などの俳優座の幹部級が特別出演の形で参加している。
劇作家杉守修三は、結婚して十余年間苦節を共にして来た妻里枝を失った。彼の所属する芸文座の人々によって通夜の行われた夜、彼は同座の研究生夏川文子の存在を知った。文子は東北蔵王山の麓の町の酒造家の娘であったが、山手学園に通学しているといって、ひそかに芸文座の研究生になっていた。演出助手の荘司は文子に好意以上のものを寄せていたが、彼女の目あては杉守であった。酒ずきの杉守のために家から取寄せた酒を贈ったりして積極的に彼に近づいて行った。芸文座のスタア神近須英子は、かつて里枝と杉守を争って破れた苦い経験があったが、今も彼に対する友情は変らず、妻を失った杉守をなぐさめ、何くれとその身辺の世話をしようとするが、そこへ若く、積極的な文子が割込んで来て彼女をおどろかせた。そして、秋の芸術祭参加作品の脚本を書くことになった杉守を文子はさらうようにして自分の郷里の温泉へつれて行った。杉守は静かな温泉で、須英子を主役に心に描きながら脚本を書いて行ったが、いつの間にか、そのなかに文子のもつ若々しい息吹きがとけ込んで、須英子のイメージを消し去るのだった。ついに杉守は帰京して須英子を訪ね、新作の主役を文子にやらして欲しいと頼み、文子の訓育を彼女に托した。須英子は杉守への愛情からそれを引受け、文子に厳しい訓練の日がはじまった。ついにその苦しさに堪えかねた文子は「杉守先生に愛される私が憎いのでしょう」と口走って須英子の家を飛び出した。文子の行った先は荘司のところだった。酔ったあげく、総てを彼に捧げてしまった文子は、早速杉守の迎えにも応じなかった。蔵王に帰った杉守は、自分を燃え立たせてくれた情熱の火の消えたことを悟って唯一人山に向かって慟哭するのだった。
杉守修三
神近須英子
夏川文子(青木梢)
荘司康夫
柴田ありや
杉守さと枝
五味晃
長谷川龜雄
西條
文子の母くら
文子の父文蔵
須英子の母
猫八の亭主
猫八の内儀
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