大木実
作治
第三十五回芥川賞を受けた近藤啓大郎原作『海人舟』の映画化。「暴力の波止場」の共同脚色者の一人、高橋治が脚色、同じく堀内真直が監督した。撮影も同様、小原治夫。主演は「暴力の波止場」の大木実、「体の中を風が吹く」の泉京子、「近くて遠きは」の石浜朗、「浪人街(1957)」の山鳩くるみ、SKDの瞳麗子。他に関千恵子、桂木洋子。色彩はイーストマン松竹カラー。
海人たちの潜りが始まる孝節-崖村の新浜集落に作治は五年ぶりで帰って来た。五年前、死ぬほど惚れた川添集落の海女ナギを仲間の民三の抜駈けに奪われて以来、村から姿を消していたのだった。その民三も、海で死んでしまっていた。作治は帰って来た晩ナギの家を訪れた。ナギは彼の腕に身を投げて、「もう離れない」と身もだえるのだった。ナギに惚れているのは彼だけではなかった。疎開者の息子で、海人になって日も浅い勇もその一人で、村一番の海人になったら結婚してもいいという彼女の言葉を真に受けて仕事に骨身を削っていた。その勇をみて、彼を慕う年若いトシは独り胸を痛めた。一方、作治は仲間の五郎から、彼が村を去ってからのナギの行状を聞かされた。彼女はトシの姉かおると恋仲だった漁業組合の鈴木にちょっかいを出し傷心のかおるは嵐の晩に流産して以来気が変になったのだ。しかし作治は、そんな女でも、オレはナギが好きだ、といった。ナギの無軌道は、遂に手をつけてはならぬ錠の弁天様のアワビまで探るようになった。そんなナギも、ある日、流産した自分の子供を思う狂ったかおるの姿に、己れの罪の深さを感じ作治の前に懺悔した。--今日も、勇は村一番の海人になろうと、海人も危険を恐れて近寄らぬ猫島附近に深く潜ったが、いつまでたっても浮上って来なかった。ナギは、作治にいわれて助けに飛込んだ。作治やトシもそれに続いた。トシが男を救い上げて来た。作治はナギが未だ出て来ないのに気づくと再び潜った。そして、彼は海底の洞穴の中に息絶えた彼女を見つけた。ナギの死体を抱いて砂浜を歩く作治の頬には止めどもなく涙が伝わり落ちた。
作治
ナギ(海女)
勇(男海人)
トシ(海女)
お高(海女)
五郎(漁師)
はな(作治の母)
源三(作治の父)
銀爺(五郎の父)
まつ(海女)
よね(海女)
喜志子(海女)
かおる(トミの姉)
いち(トミの母)
うめ(老婆)
正子(海女)
清子(海女)
ふく(勇の母)
民三(ナギの夫)
鈴木(漁協粗事務員)
加東(漁協組事務員)
巫女
中庄のおかみ
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