南田洋子
桃代
佐多稲子の原作を「明治天皇と日露大戦争」の館岡謙之助が脚色、「マダム」の阿部豊が監督し、「今日のいのち」の伊佐山三郎が撮影した。主演は「幕末太陽伝」の南田洋子、金子信雄、「十七才の抵抗」の長門裕之、「肉体の反抗」の大坂志郎。ほかに小園蓉子、高友子、利根はる恵、二谷英明、渡辺美佐子、堀恭子など。
小さいころ母を亡くした桃代は、十八歳のきょうまで、長崎の伯父に育てられた。しかし、その伯父は会社をクビになり、近県の造船所で働いている父秀文からも、ぱったり送金が絶えてしまったので、桃代は芸者になろうと思った。手紙でそれを知った秀文はびっくりし、娘を自分の下宿へ呼んだ。そして、桃代は父の同僚竜岡の口ききで、会社の食堂の給仕女として働くことになった。お化粧しないでも、着飾らないでも、十人なみ以上の桃代に、工員たちは早くも目をつけた。藤井という男などは呆れるほど執拗につきまとってきたが、それをこらしめたのは、乱暴者で評判の安治だった。下宿先の娘が恋している大学生の技師中里に、桃代も心をひかれた。が、中里はチャッカリしたもので、さっさと財産目当の結婚をして、桃代を失望させた。一方、父の秀文は飲み屋の女給静江に熱を上げていた。ところがある日、静江の情夫が刑務所から帰ってきて、秀文はこっぴどくおどかされた。秀文が竜岡のすすめで再婚する気になったのは、それから間もなくのことである。盆踊りの夜、桃代は好色な会社の医師川瀬に、処女を奪われてしまった。悲しみをこらえ、あくまでも強く生きようと、桃代は必死だった。そんなある日、朋輩の秋子も川瀬の毒牙にかかった一人だと知った。秋子の場合は身ごもっているだけ、悩みが一層に大きい。桃代は川瀬に会い、秋子のために医療費をとってやった。いま、桃代はあの乱暴者の安治が、実は言葉巧みにいい寄ってくる連中よりも、はるかに善良な人間だと判った。けれども、「汚れのない生娘と結婚したい……君のような……」という安治の言葉に、桃代は悩みぬいたすえ、東京へ働きに出ることにきめた。その日、安治が駅まで見送りにきてくれた。その安治をじっと見つめた桃代は「あなたのおかげで人を愛することを教わった……」としみじみ囁くのだった。
桃代
父秀文
勝子
川瀬
妻光枝
竜岡
中里
雪子
艶子
艶子の母
安治
安治の母
静江
静江の母
秋子
千代子
まさ子
藤井
三好
片山
洋裁の先生
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