監督、脚本
「建設の凱歌 佐久間ダム完成篇」に続いて、岩波映画社が製作した、谷川岳で七カ月間ロケの長篇記録映画。色彩はアグファカラー。
ストーリー
谷川岳は太平洋側と日本海側を分つ分水嶺であり、従って気象の変化は激しく、今までに数多くの登山者の命を奪い魔の山ともいわれている。今井満さんもその犠牲者の一人である。今井さんはマチガ沢上部、頂上から二百米のところでスリップ、ピッケルを落したため更に四の沢に墜落した。五月十六日、知らせをきいて沼田山岳会の人たちが出発した。前日から降った新雪のため捜索は困難だったが遂に発見、遺体は柴そりにのせられて山を下った。やがて検死。そしてダビ。お兄さんと同行者金子さんの手で火は点ぜられた。コブシの花が咲き、谷川岳にもおそい春がやって来る。しかし、六月二日には一日に六件の遭難が相ついでおこった。中川文子さんははじめてマチガ沢を登りスリップした。雪渓がとけたあとは落石が極めて多い。その危険の中で捜索は続けられ、遺体を確認した。涙のうちに遺体にバラの花びらがまかれ、香水がかけられた。先生に連れられて学友たちも谷川にやって来た。みんなの見守るうちに静かに火は点じられた。加藤さんは谷川頂上付近で行方不明になり、二カ月の捜索も空しく発見されなかった。それ以来、今まで山に登ったこともなかったお父さんは、山岳会に入って岩のぼりの技術を覚え、毎土曜、日曜に息子の姿を求めて山に来た。残雪の消えた七月二十六日、遂に遺体は発見された。横田さん老夫婦は毎年夏になるとこの山にやって来る。八年前になくなった息子のお墓参りなのだ。今生きていれば二十八歳の息子のために。今日もまた谷川岳は若人にあふれている。若い人たちを魅きつけずにおかない大自然も、しかし些細な手落ちにはきびしい試練を下すことを忘れてはならない。それを警告するかのように今日も肩の小屋の鐘は鳴りつづけている。
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