長谷川一夫
巽の直次郎
読売新聞に連載中の富田常雄の同名小説の映画化。日露戦争当時の東京を背景にしたメロドラマで、「暴風圏」の渡辺邦男が脚色・監督した。撮影も同じく「暴風圏」の渡辺孝が担当。
明治三十八年一月の東京--国会議員明石健太郎は、妾宅美弥のもとで何者かに殺された。明石家には、未亡人となった織枝と、娘の房代がいた。長男の紋太は家を飛び出し、艶歌師をしながら社会主義運動に加わっていた。巽の直次郎は書生として明石家に住みこんでいたこともあったが、今はやくざの身の上である。直次郎は事件の当夜出会った、目開きの偽按摩の挙動が気になった。数日後、またその偽按摩によく似た男を見かけたが、その男は菜種問屋いさき屋勝五郎という商人だった。房代が不忍池のほとりで酔漢に襲われた。川島という苦学生に救われた。二人の仲は進んだ。紋太は荒物屋の二階に下宿してい、娘のお桂と恋仲になっていた。が、お経は芸者に売られた。直次郎は織枝にたのまれて、内務大臣から貰った見舞金の一部を、今は芸者となっている美弥に届けた。美弥は直次郎に預けると言った。直次郎への求愛だった。川島は自転車でぶつかって来た益本律子という娘を家まで送ったことから、益本家の書生として住みこむようになった。律子はわがままな娘で、房代の前では、川島の恋人然としてふるまった。だが、川島は房代に変らぬ愛を誓った。お桂は、紋太と待合で会ったことがお女将に知られ、紋太に心中を迫った。父親に発見され、紋太は追い出された。直次郎が犯人と何らかの関係があるのではないかとにらみ、人前でいさかいを起したことのある相生の森造が殺された。森造殺しの嫌疑が直次郎にかかった。花政親分は、ほとぼりのさめるまで娘のお咲が嫁いでいる浜松の仁助のもとへワラジを脱ぐように勧めた。直次郎は浜松へ行った。お咲からは歓迎されたが、仁助にいや味を言われた。かつてお咲は直次郎に惚れていたのである。心中未遂以来、偶然浜松に流れて来た紋太に出会った。雨の夜、納豆問屋の屋敷にうずくまり、やがて塀によじ上ろうとした怪しい男があった。あの晩の偽按摩であった--。
巽の直次郎
川島道夫
明石紋太
明石健太郎
明石房代
お桂
美弥
明石織枝
丹下節子
お咲
益本律子
お糸
お勢
花政
幸蔵
仙吉
鳴海又兵衛
相生の森造
いさき屋勝五郎
益本博
庄太
仁助
三勝
内務大臣清浦男爵
美喜松の芸者
酔漢
秘書
いさき屋の番頭
刑事
美喜松の若い者
巡査
艶歌師
事務官
偽按摩
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