佐野周二
小池文之進
「グランドショウ1946年」に次ぐマキノ正博演出作品。
街道一の親分と謳われた昔の夢をおう次郎長をへこますために、文明開化のザンギリ頭で清水港に訪れた二人の青年がある。それは徳川三百年の天下が崩壊し明治維新の黎明を告げる江戸の佐藤塾で学問をした新知識、小池文之進と他の一人は次郎長の息子で永く勘当を受けている清太郎である。酒樽を列べてその豪勢さを誇った清水一家も時代の流れに勝てず、男優りの次郎長の娘お春は次郎長に火の車の家計をかくし空樽を列べて虚勢を張る有様で、今日も津向文吉親分の久しぶりの訪れに母の遺品を売って酒代とする苦しさだった。そして兄の清太郎がいてくれたらと嘆いていた。その清太郎が帰って来たが、次郎長は容易に敷居をまたぐことを許そうとはしなかったが、文之進の三段論法にする鮮やかな弁舌に圧倒され結局ずるずるベッタリに家に入れ清水一家の相続者として親分衆に盛大な披露を行った。その酒席で文之進はやくざの世界を徹底的に攻撃し一同の怒りを買った。清水一家の売り出しの若者、源太郎は街で文之進を襲ったが、文之進の柔術に投げ飛ばされる。お春は清水一家殊に父に楯つく文之進を秘かに訪ねた。文之進は清水一家を清太郎と共に百姓にさせるために来たと告げ、時代に目醒めやくざ稼業の精算を説いた。富士の裾野を開墾しようという清太郎、お春の申し出に「百姓なぞとはもっての外」とひどく怒った次郎長も、最近の家の内情を知り、又かすり鞘で食う根無し草と自分の子に言われ、さすがに時の流れに目覚め、若者の申し出を諒解する。清水一家の開墾計画が知れ渡ると各地の親分衆から激励と祝物がどんどん舞い込む有様である。文之進は更に府中の伏谷判事と図り徴役囚人を借り受け、己が家の下男だった甚兵衛を農作指導者として開墾事業をはじめた。毎晩食後一家の者達に論語の講義をしようとする清太郎と現実に即して生活の慰安を図ろうとする文之進との間に意見の相違が生じ二組に分かれて集団生活をすることとなり、これがいつしか開墾競争へと発展した。論語の講義に暮れる清太郎組に対して文之進の組では演芸会、盆おどり等を行い歓喜して開墾の疲れを忘れる有様で、中でも三下の虎吉は浪花節で一同を喜ばし人気者になった。文之進のやることに反感を持つ源太郎は文之進を窮地に陥入れようと囚人の久五郎、友蔵をそそのかして豪雨の夜脱走させた。この報を受けた文之進は自分の真意を悟って二人が再び帰って来ることを信じた。脱走した友蔵は川の堤防が崩れかけているのを発見し「これが切れたら開墾地は目茶目茶になる」と叫んで開墾村へ急報に引き返した。けれど開墾地は水浸しとなった。一同は茫然自失、ただ甚兵衛のみ黙々と鍬を振るう姿を見て文之進は真実の百姓の道、百姓の心を教えられて鍬を掴んで走り出した。次郎長一行もなぐり込みの意気でこれに加わり、楽しい歓声のうちに開墾が進められて行った。
小池文之進
山本清太郎
山本長五郎
大政
小政
仙右衛門
源太郎
岩五郎
円蔵
斧八
虎吉
文助
甚兵衛
伏谷如水
津向文吉
友蔵
久五郎
大村伝蔵
市蔵
見受山鎌太郎
江尻の大熊
寺津の間之助
お春
お光
おすぎ
お梶
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