河野糸子
チケットの娘
「陽気な女」「十一人の女学生」等の製作者田中友幸の製作で脚本、演出ともに、三名ずつの協同作品。「歌へ!太陽」「民衆の敵」「麗人」「十一人の女学生」「霧の夜ばなし」の八住利雄、「陽気な女」「民衆の敵」「明日を創る人々」「命ある限り」の山形雄策、及び千明茂雄の三人の協同脚本を「民衆の敵」「人生とんぼ返り(1946)」の今井正、「命ある限り」の楠田清、「明日を創る人々」の協同演出者関川秀雄が協同で演出に当り、撮影は「命ある限り」の仲沢博治が担当。「民衆の敵」「四つの恋の物語(1947)」の第四話(恋のサーカス)等の浜田百合子、「十一人の女学生」の河野糸子の他菅井一郎、東山千栄子、志村喬らが出演している。
早朝からいろいろの人を飲み込んでゆく地下街。「新世界」と書いたネオンのかかっているおろし戸は毎日何事もなく開きそして閉じている。がそこには様々の色模様が人知れず織りなされてゆく。真面目な生活の尊さをマダムに説かれながらも金に惹かれて地下街の顔役にまける気の弱いバーの女、靴の磨き代にある時百円を握らされて金の魅力に惹かれ青春クラブと呼ぶ怪しげな賭博場への案内役をいつしか始めている靴磨き、強盗で三万円をかすめ取り地下街のバーへ隠れて酒をあおる引揚者。世をすねて同胞の薄情を呪う引揚者に切れむしろと煙草の吸がらを与える浮浪児達。この浮浪児達を動物のように嫌っていた地下映画館のチケット娘。浮浪児達の引揚者への心情の優しさを聞いて、ある日追われた引揚者がチケット売場へ投げ込んだ金で、娘は浮浪児達に食べたいものを食べさせてやる。靴磨きは青春クラブへ誘った友人がクラブで殺されたのを知りクラブの経営者地下街の顔役を殺してしまう。バーの女は親分の死も知らず外で待っている。おろし戸は今日も静かに閉じられていく。
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