斎藤達雄
来栖啓吉
「海の狼」以来の辻久一のプロデュース。「母の灯」「バラ屋敷の惨劇」の沢村勉の脚本、監督は「海の狼」「月の出の決闘(1947)」の丸根賛太郎が当った。「月の出の決闘(1947)」のキャメラマン中田節三と、「壮士劇場」「手をつなぐ子等(1948)」「槍をどり五十三次」の宮川一夫が協同でキャメラを担当。キャストは斎藤達雄、英百合子、南部章三、見明凡太朗、らのほか小柴幹治、ニューフェイス日高澄子らの出演。
海辺のホテルで深夜胸をかきさくような子供の絶叫が聞えた。だがそのホテルに子供はいないのだ。ちょうど泊り合せていた退職警部来栖啓吉は何かピンとくるものがあった。しかも同じ宿泊人元女優の法村あき子が妙なことを口走った。その悲鳴は一年前に死んだ子供の幽霊だという。来栖は恐ろしい事件を感知した。死んだ子供というのはこれも自動車事故で死んだといわれる大学教授国枝元信の息子良一である。元信の死因も怪しいし心臓麻痺で良一が亡くなったというのにも疑問がある。実をいうと、この恐ろしい形相の面で毎晩良一は脅かされついに心臓麻痺を起したに違いない、と法村あき子はその面の写しを来栖に見せた。面で脅かした男は?林という元信の家令をやっていた男、その林を操っていたのが元信の弟で安彦という実業家、しかも彼は元信の娘裕子をその許婚者河野三次郎医師から引き離し、かねて裕子に目をつけていた友人の実業家小牧直紀に売りつけ、その交換条件として小牧が戦時中隠していたジュラルミン板を二人で旨い具合に処分しよう、という約束になっていたのが、出させようと思っていた元信の金が出ないし話がまとまらないのに業を煮やした安彦は悪計を廻らした。裕子を国枝家の籍から抜いてしまい、元信を毒殺、自動車に乗せて宝塚街道の崖から突き落し、良一は林の手で殺させ、国枝家の財産を一挙に自分の手に入れる寸法だったのである。来栖は河野医師と裕子の二人に協力させ、安彦の兇悪な企みを見破った。あやうく来栖自身も毒殺されかかりながら、ついに安彦の尻尾を掴えることが出来た。裕子と河野は改めて結ばれた。そして来栖にとっては最後迄残された謎、子供の悲鳴のことを法村あき子が笑いながら種明ししたのである。
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