月丘夢路
田部和江
企画は「激怒」の中野泰介。脚本は「愉快な仲間(1947)」「シミキンの結婚選手」の斎藤良輔、「それでも私は行く」の柳川真一、「長崎物語」(斎藤良輔と協同)の長瀬喜伴で「逃亡者(1947)」のシナリオを書いた井上金太郎の終戦後第一回監督作品。カメラは「母の灯」の滝花吟一が担当。主演は「愉快な仲間(1947)」の月丘夢路、それに高田浩吉、笠智衆で、河村黎吉、藤井貢、楠薫らが助演する。
時の政府の高官鯉沼孝之はかつて政敵として争い敗北させた田部の娘和江が、故郷の温泉街で酌婦に身をおとしていることを知り、何んとかして救いたいと思っていたがその申出を和江は憤りをもって拒絶した。鯉沼は秘書森村に彼の意を含めた。森村は一策をろうし--自分は実は鯉沼の政敵で、彼を倒したいと思っている。それには和江の協力を得たい--といって和江の賛同を得て東京へ連れて来た。東京では森村は和江を邸に住まわせ、彼女は令嬢としてみがかれた。ある日ダンスでふと学生と知りあい、和江はそれが鯉沼の息子清だと知り、いつわりの恋で誘惑しようとした。清は何も知らず熱愛した。そうしたある日展覧会場で二人は父鯉沼に会った。清はその日父に和江への愛情をうちあけた。鯉沼は何んとかして二人を結ばせたいと思ったが、それは和江の本心でないことを清にさとた。清は驚きぼう然と家を出た。森村はろうばいし、和江に、自分の一策を打ちあけ、和江の本当の保護者は鯉沼であることを告げた。興奮した和江は、鯉沼の邸にいき彼を面罵して身につけた宝石を投げつけて飛び出した。だが彼女は次第に冷静をとりもどし、心の狭溢な自分を考え、鯉沼の温情が思い出されて来た。歩きつかれ行きついた先はかつて清と来た思い出のホテルであった。そこには失踪した清がいたのだ。はからずも再会した二人--その夜和江ははっきりと清を愛していることを知った。そこには全く偽りのない真実の愛情だけがお互いの胸の中に燃えたのだ。
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