佐野周二
松崎英二
「不死鳥」の小出孝と共同で小川記正第一回プロデュース作品。原作は加藤武雄門下の正治清英が婦人倶楽部に書いた短篇小説『灯ともし頃』で、「娘の逆襲」「誘惑(1948)」の新藤兼人のシナリオ。演出は「浅草の坊ちやん」「懐しのブルース」の佐々木康、カメラは「新婚リーグ戦」「懐しのブルース」の斎藤毅の担当で、東宝・吉本提携「タヌキ紳士登場」についで大泉スタジオで製作される。「旅裝」につぐ佐野周二主演の炭坑もので、新人小宮令子、「長崎物語」の山口勇、「娘の逆襲」の逢初夢子及び「かりそめの恋」の笠智衆らが出演する。
北国の山深い炭鉱の町。このやまにブラリとやって来た松崎英二はらい落の性格とたくましいからだの持主である。だれもその前身は知らないが、坑内夫となった彼はメキメキ採炭成績を上げ、やまの所長藤森甚三からも信認を得た。所長藤森は一坑員から身を立てた努力精励の人で、眞砂子という一人娘がいた。東京の医専を卒業して新しく炭坑の病院に働くようになった彼女は、偶然同じ汽車でやまに来た英二と相識って次第に親しくなって行く。最近やまの配給物資が横流れしているといううわさが高まり所長を心痛させるが、これは悪徳漢総務部長の安田が、不良坑員まだらの権たちと結託してやっている悪事なのである。彼等が常にヤミ取引の相談所としているのは町のカフェー鈴蘭亭であった。ここの女給春枝は権の妹であり、無頼の兄のために安田のめかけにされようと日夜苦しんでいる。そしてこの春枝こそは英二のなき戦友の妻で、彼がこの町に来た目的の女性なのであった。英二は春枝を健康な世界へ救い出したいため、しばしば鈴蘭亭へ通い、春枝は英二にいつしか好意以上の気持を抱くようになる。そしてそれは安田をしっとさせ、英二への感情を悪化させ、眞砂子も英二を誤解するようになった。一方安田たちは祭りの夜のドサクサに山すその空倉庫から物資を持ち出すことを計って、その夜が来る。英二は春枝を恩人の妻としての関係において、幸福にするためにこのやまから連れ去る決心をして、老坑員吾作の家を訪れる。この事は吾作の娘ふみによって眞砂子に告げられ、眞砂子は英二に対する誤解を氷解し、急いで英二のもとに行くが彼はもう居ない。そのころ英二は倉庫で安田、権たちと乱闘し彼等を倒した。倒れた権は、初めて春枝の兄を思う心情を悟り、前非を悔いて謝るのであった。
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