小杉勇
秋田定次郎
「秘密(1948)」につぐ柳井隆雄の製作で、彼の原作から「長崎物語」(斎藤良輔と共同)の長瀬喜伴が脚本を書き「新婚リーグ戦」(監督)「旅裝」(脚本)「受胎」(台辞)「かくて忍術映画は終わりぬ」(構成)の池田忠雄がメガフォンをとる。カメラは「噂の男」の斎藤毅。監督に転向した小杉勇が東横映画の「花嫁選手」「かくて忍術映画は終わりぬ」をあげて俳優にかえり大映京都「木曽の天狗」についで主演する。「飛び出したお嬢さん」「わが愛は山の彼方に」の三浦光子「弥次喜多凸凹道中」の飯田蝶子「誘惑(1948)」「花嫁選手」の山内明「消えた死体」の久慈行子の他に終戦後初の坪内美子が出る。
山国のある町--。古い力士上がりの秋田定次郎はかご屋を営んでいた。あ日吉田静江という美しい少女が定次郎宅に来た。彼女は彼がかつて力士時代に恩義をうけた相撲茶屋三ッ万の孫娘で、生家は没落、父母には死なれて、寄るべなき身を定次郎のもとに寄せて来たのだった。彼は静江のなき母に似た静江に尽くす好意は、亡き恋人に尽くす純情な夢でもあった。定次郎は彼女のために衣服をそろえ町の踊りの師匠のもとに通わせた。静江は豊かでない定次郎の負担を軽くするため、踊り仲間の通子の兄の正平の勤め先、町の木工場の女子事務員になった。工場の青年たちのあこがれとなった静江に、工員の一人がつけ文をしたことから、昔かたぎの定次郎の怒りは爆発し、主任の正平のもとに怒鳴り込む。正平をひそかに慕う静江は、定次郎のこのしぐさが辛かった。間もな正平と町の老舗の娘との結婚話が持ち上がり、静江は悲しみのあまり、踊りの師匠が大阪に行くままに、自分も全くをあきらめて舞踊の道に生きて師匠と同道すべく決心する。静江の気持を察した定次郎は鹿島立ちの晴着を贈るために三千円の金がほしかった。たまたま木工場に素人相撲大会があり、賞金三千円がかかっていた。定次郎は幕内力士の前身をかくして出場し、工場相撲部主将の正平と組んだ。しかし定次郎は負けた。一方正平は、あとで定次郎の前身を知り、自分へ花をもたせてくれたものと感謝し、賞金をもって定次郎を訪れる。この会談で正平は定次郎の相撲に出た事情と静江の恋心を知った。静江の恋は受け入れられた。婚礼の夜、定次郎の相撲甚句は二人の幸福を祈って朗々と町にひびいて行く--。
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