水島道太郎
川崎
原作は加藤武雄の「一夜」より取材した映画化で、企画は「時の貞操」(前後篇)につぐ伊賀山正徳に、脚色も「時の貞操」の八木保太郎、「オリオン星座」の田口哲のメガフォンにカメラは「舞台は廻る」の渡辺公夫が担当する。出演は「肉体の門(1948)」(吉本・太泉)の水島道太郎と「三面鏡の恐怖」に引き続いて木暮実千代が共演するほか大映第三回ニューフェイスの若杉須美子が初登場、若原初子、平井岐代子、比良多恵子、志村喬(東宝)らが助演する。
汚濁混とんの世に、生活にあえぐ都会人の姿は急流をさかのぼる魚のあがきに似ていた。駅前に呼びかける傷痍軍人にも、浮浪児にも貧しい花売娘にも誰一人としてかえる見ることも許されない。バーはヤミ屋の集会取引所となり、派手なネクタイやダイヤの指輪が踊っていた。復員の川島はこの世を憎悪し、うっ憤晴らしに、気えんをあげていた屋台の焼鳥屋で酔った勢いでダンサー京子と知り合いアパートで一夜を明かすことになった。ところが翌朝顔もろくにみていなかった京子は、その男川島が、死んだ夫の兄にそっくりなのでびっくりした。同じアパートにいる同僚道代に、男の寝ている内に交代してもらい、川島は一夜で感じが変わった女をいぶかりながら帰っていった。京子は川島の帰った後川島の言葉の正しかったのに反し、自分の現在の姿が死んだ夫の兄に対して恥ずかしかった。翌日京子は早速田舎に引き上げていった。その後に川島がやってきて、京子のナゾは解けたが道代の娘光枝が川島を父親と間違えたことから、道代と川島は夫婦きどりで光枝を連れて遊園地に楽しい一日を過ごした。道代は川島の人となりに心動かされるところがあった。川島が京子の後をおって田舎に帰る駅で道代は、夫はすでに帰らぬ人であるが、気をはげますために帰りを待つと仮想していることを打明けて別れた。川島はその言葉が気がかりで夜遅く道代を留守に訪れたが、友人ユメの中傷で誤解を招き、川島と道代は、互いに愛し合いながらも、別れていかなければならなかった。
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