嵐寛寿郎
にやりの文七
「好色五人女」につぐ大映京都の時代もので、脚本は東宝「新馬鹿時代」「青い山脈(1949)」(今井正と共同)の小国英雄、監督は「おしどり笠」「山猫令嬢」の森一生。大映と新契約した嵐寛寿郎が「闇を走る馬車」「龍虎伝」以来一年二ヶ月ぶりで「好色五人女」の花柳小菊、「親馬鹿大将」の金語楼と組んで主演する。他に漫才の一路、突破が特出し、映画久しぶりの沢村貞子に、これまた終戦後初の市川男女之助、「かくて忍術映画は終わりぬ」「春爛漫狸祭」の新人日高澄子が助演する。
「柳橋に日本一が二つあり、料理鶴清、目明し金兵衛」と狂歌にまでよまれたその料亭鶴清では、主人の清右衛門の死後、内儀おみねは毎日酒と男との乱行を続けていた。明日に迫った「たのしみ会」におみねは役者粂之丞と「かさね」を踊る趣向をきめる。来月の中村座には粂之丞のためにみねの名前で引幕をおくることを約した。昔から縁起の悪い「かさね」を、息子の新太郎は妻お品が妊娠中だけに恐れて、極力反対したがみねはうけつけなかった。粂之丞は芸者小芳といい仲なのをおみねは知るよしもない。一方目明し金兵衛は人呼んでいねむりの金兵衛といい、いねむりが覚めた途端に犯人がわかるという。金兵衛の娘お光も女だてらに投げ縄の天才で「捕物小町」とよばれ、婿の文七もにやりの文七とあだなされて、近ごろ売り出しの目明しである。捕物の腕は名人だが、金兵衛文七の玉にきずは大の将棋好きで、ひまさえあれば盤に向かっていつもお光の癇癪のタネになっている。やがて「たのしみ会」当日が来て企画係の吉野屋幸兵衛がおみねのもとに、仕掛け物の鎌を持参して“鎌とり直し土橋の上、襟髪つかんで一と抉り……”この件で、おみねを本当の殺人と見せかけて、大さわぎさせようという珍趣向をもって来た。面白かろうというので、金兵衛も招待して「かさね」の幕が盛大にあいた。ところが舞台ではいつの間にか鎌が本ものにすりかえられておみねは重傷を負って倒れた。「医者だ!」「自身番だ!」と場内がぜん大さわぎとなり、金兵衛、お光の登場となる。文七はどこに消えたかいない。お光は鎌のすりかえを見たという芸者久鶴を探して、一室の障子をあけたとき久鶴とあいびき中の亭主文七を見てカッとなる。しかし金兵衛は文七がこの事件を横からさらってお光の鼻をあかすための仕掛けと教えたので、お光の焼もちはたちまち競走意識に変わって、夫婦二人の腕くらべとなる。お光は当日の関係者を全部一堂に集めて、吉野屋を犯人と指名する。文七はニヤリと笑っておみねの兄の朴庵を指名した。結局、おみねは無事だった。おみねが淋しさのあまりとりまき連のつれなさに気持ちがいじけて仕組んだからくりだったのだ。
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