水島道太郎
村川浩介
東横京都撮影所で製作される芸協作品で、斎藤良輔がサンデー毎日に掲載したスリラーシナリオから松竹脚本部の鈴木兵吾が脚色した。監督は「結婚狂時代」につぐ佐々木康で、「男を裁く女」以来東横における二回目のメガホンである。カメラは大映京都の石本秀雄で主演は「青春賭博」につぐ水島道太郎(フリー)「花くらべ狸御殿」につぐ喜多川千鶴(大映)の二役「検事と女看守」につぐ浜田百合子(東宝)で、他に新東宝の江川宇禮雄、東横の月形龍之介、花柳章太郎の息子青山健吉、杉狂児の息子杉義一らが助演する。
雨の夜、山斗劇場の楽屋口に演出家の村川を訪ねたのは四年前に自殺した人気歌手野上静江である。楽屋は忽ち恐怖のどん底に陥ったが、実は彼女は静江とは瓜二つの妹珠江であった。珠江の熱心な希望により彼女を一座に加えてから劇場には次々と不思議な事件が起こった。村川の劇団再建の努力は興業界のボス河田の妨害で妨げられ、あまつさえ唯一のスター月影みどりが河田の魔手に踊って脱退してからは手も足も出ず、やむなく珠江を主役に抜擢してみると姉にも勝る才能で、一同の愁盾を開いたが、河田はまたも新聞記者宗六を使って珠江を引き抜こうとする。折も折、山手劇場ではかつて静江が死んで開かずの間からもれる静江の歌声に恐れて続々退団するものが出て珠江も責任を感じたが、村川の熱意と彼に対する尊敬から珠江は劇団と運命を共にしようと決意する。ところがその村川こそ姉の愛情を踏みにじり死に導いた人であることを聞いた河田のもとに走る。河田は得たりと彼女を日比谷音楽堂の音楽会に出して大成功を収めた。一方みどりはこの音楽会に出ることを条件に村川の手を離れたので珠江をにくんで音楽堂に来るが、珠江の歌の見事さに何時しか怒りも消えてしまう。かくして大成功を収めた珠江は河田のために待合いに連れ込まれたが、みどりの出現によって難をのがれ、ここで初めて河田こそ同じ手段で姉の貞操を奪った悪魔であることを知った。あらゆる誤解のとけた村川、珠江、みどりは協力して、今度こそ劇団再建を誓うのであった。しかし珠江に逃げられみどりを失った河田の最後の毒牙が開幕した山手劇場の舞台裏にみがかれていたのだ。熱狂する観衆、踊子の群舞、調子ずくオーケストラ、その舞台裏でみどりが小屋番の怪奇な行動を目撃したころ、楽屋では珠江がいわくあり気な口紅を、その唇にぬろうとしている。しかも死んだ日の姉と同じ様に……。
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