佐野周二
木村鯛吉
えくらん社作品「娘十八嘘つき時代」を企画した中野泰介の企画で、梶野真三原作の「鯨の町」より取材して「結婚三銃士」「嵐の中の姉妹」の柳井隆雄が脚色し「鐘の鳴る丘 隆太の巻」の佐々木啓祐が監督に当る。キャメラは「緑なき島」の竹野治夫が撮影に当る。主演には「お嬢さん乾杯!」の佐野周二「地獄の貴婦人」の木暮実千代の他「四人目の淑女」「忘れられた子等」の笠智衆「斬られの仙太」の山村聡「麗人草」「我輩は探偵でアル」の若杉曜子「静かなる決闘」の志村喬「嫉妬(1949)」の河村黎吉「シミキンのスポーツ王」の堺駿二の外、坂本武、飯田蝶子、三井弘次らが出演する。
ある港町に向かってバスが青葉の色におおわれた山道を、のぼって行った。その中に木村鯛吉は「漁船甲板読本」のある頁を口の中で繰り返していた。鯛吉は船乗りになるために、この港町にやってきたのであるが、不なれな土地のために、偶然バスの中で知り合った八雲旅館の娘、静江にいろいろお世話になってしまった。静江は昔、福丸の息子岩田健二と結婚したが、二人の間はうまくゆかなかった。そして健二は旅に出てしまった。静江は今では高草丸の船長の海保圭助に少なからずの好意をよせているのである。が同じ捕鯨船でも福丸は最新式を誇り、高草丸は古いくたびれた船であった。鯛吉の乗りたいと思った船、高草丸は明日出帆という。無事合格した鯛吉は、八雲旅館で体を休めていたその晩、高草丸の水夫長政長が酒の勢いで船長の海保を、おかみさんのとめるのもきかず、盛んにののしっていた。鯛吉は眠られず「うるさい--」と叫んだ、とたんにけんかが始まって、政長は目にキズを受けた、いよいよ出航した高草丸は鯨を追って幾日か過した、鯛吉は油差の音吉や、コックの村田らに教えられながらだんだんなじんで行った、そして船長の人格の豊富を知った。政長ともなじみになった、一方福丸は突然帰えってきた岩田を迎えて活気を呈していた。またまた福丸と、高草丸との競争となった。しかし高草丸の船長海保は日本の捕鯨道徳をしっかりと心得ていたが、かえってそれがために我利に走る福丸や、仲間たちに誤解をもってながめられていた。それがやがて静江を中心に岩田と海保の争いまで発展して行った。しかしある日高草丸は鯨を追って行った、が船長の海保は大ケガをして帰ってきた。静江は真剣であった。鯛吉もこれに協力した。岩田はあくまでも静江を以前の自分のものにしようとしたが、鯛吉の純情さと船長を思う情の前にくじかれてしまった。鯛吉と岩田は男としての力強い握手をしていた。やがて沖を通る定期船に岩田は再び乗船して何処へともなく立去ったのである。船長海保は皆んなの誤解を自然と解きほぐして行った。鯛吉も最早腕力を振うことは船長から許されないであろう。
木村鯛吉
海保圭助
静江
政長
岩田健二
おしげ
稲取
黒木機関長
音吉
松さん
村田
八雲館のお上さん
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