徳大寺伸
木島敏郎
「君待てども」に次ぐ久保光三の製作にシナリオは「朱唇いまだ消えず」「森の石松(1949)」についで新藤兼人が執筆、京都の大曾根辰夫が「フランチェスカの鐘」につぎ大船で初のメガフォンをとり、キャメラは「フランチェスカの鐘」の太田真一、出演者は「嘆きの女王」「地獄の笛」につぐ徳大寺伸、「美しき罰」「嫉妬(1949)」の幾野道子、「フランチェスカの鐘」の鶴田浩二らが主演するほか、宇佐美淳、民芸の清水将夫、それに井上正夫らが共演する。
東京の街も銀河アパートもまだひっそりと眠っていた。管理人のトヨが新聞を配って三階の木島の室まで来て目撃したのは、殺されている妻梅子のそばに、鮮血の短刀を握ってたつ木島敏郎の姿だった。容疑者として敏郎は拘引されていった。敏郎は始め犯行を自認したが、第一回の公判で敏郎は否認を叫んで卒倒してしまった。それによって再調査が行われることになった。けい眼の西川検事によって事件は意外な方向に進展した。というのは、敏郎が自供した証人が次々と召喚され、カストリ屋の親ぢ、交番の警官、入口ですれ違ったという牛乳配達等いずれも容疑者敏郎の自供に間違いなく、完全なアリバイが成立したからである。敏郎は復員後、四年間というもの仕事もなく、妻梅子の、バアで働く唯一の収入で生活していたため、夫婦仲は余りうまくいっていなかった。その夜も二人は一寸したことから口論し、敏郎はアテもなくアパートを飛び出した。日ごろなじみのキャバレーフェニックスに働くマユミのところに泊めてもらおうとも思ったが思い返してそばにあったカストリ屋台でトラになりフラフラ歩いているところを交番の巡査にとがめられ、アパートまで送られたのである。敏郎が自分の室の扉を開けたとき、妻梅子はすでに殺害されていたのだ。敏郎は無意識に背中の短刀を抜きとってぼう然と立ちつくしていた。それを管理人のトヨが目撃したのである。犯人の姿はすでに見えなかった。事件が迷宮に入ろうとしたとき、銀河アパートに近い百貨店の守衛が意外な証言をしたのである。ちょうど犯行がなされたと推される時刻に、守衛は店内を巡回中フと窓をみると、アパートの三階の部屋から非常梯子をかけ下りる洋服の男を見たというのである。警部はまず順序として敏郎のなじみだというマユミの調査にかかったが意外にも、そのマユミの部屋で土地の顔役五郎を発見した。その時五郎はちょうどマユミを脅迫していたが、五郎こそは殺害された梅子と最も密接な関係をもっていた男なのである。マユミこそは明方怪しげな五郎の行動を目撃した人であったのだ。マユミの陳述で事件のなぞは解かれ、逃げようとしたがついに五郎は包囲陣に逮捕されたのである。
木島敏郎
妻梅子
島本五郎
マユミ
西川検事
水谷警部補
部長検事
裁判長
立花弁護士
吉田トヨ
屋台の親爺
道橋
新聞配達
守衛
マダム
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