柳家金語楼
山下
企画は「地下街の弾痕」「虹男」の辻久一。朽木綱博の原作から「三十三間堂・通し矢物語」「グッドバイ(1949)」の小国英雄が脚本を執筆、「千姫御殿(1948)」の野淵昶が監督し、撮影は「新妻会議」の宮川一夫が担当する。出演者は「花くらべ狸御殿」の柳家金語楼「平次八百八町」の花菱アチャコ「びっくり五人男」の横山エンタツ「花くらべ狸御殿」の藤井貢「三つの真珠」の日高澄子、小柴幹治らである。
とある温泉をひかえた軽便鉄道の駅。激しい雨の温泉客をのせたバスは山へかかる途中ガソリンがきれた為め折返しの列車に間にあうべく又駅に引返したが、既に列車は去った後。ぷりぷりした客達は仕方なく駅長室に集って夜をあかすことにするが、駅長は仲々肯じない。その理由は戦時中この駅のポイント係が心臓マヒで倒れたため、乗客をのせた列車が断崖から落下し、それからというもの毎晩十一時ごろになるとダイヤ不明の幽霊列車が汽笛をならして走り去るといって、駅長はさっさと帰り、後に残された乗客達は怖気ずく。客の中には美しい令嬢風の女に親切にしてけんかばかりしている石田と藤木、カンカン帽の山下、世話好きの渋谷、何か思案顏の野上、新婚夫婦などがいた。突然電気が消え、激しい音がし電気がつくと駅長が倒れている。医者だという山下が渋谷と共に駅長を介抱する。雨がはげしくなり、遠くで汽笛、シグナルが聞える。部屋の中には不安な空気が流れている時、戸外に変なかっ好をし踊り回る狂女がやみの中に浮び出た。運転手の大川が飛び出してなだめたが、女の顏を見た野上は近附き、彼女が昔知合いだった踊り子京子であり、狂いは大川とぐるになった狂言だった事を見抜く。彼は妹が大川のために傷つけられ自殺したので、復しゅうに来たのだったが、その大川も逃げかくれているすきに胸をぐさりとやられた。犯行を否定する野上に、渋谷は自分が刑事だと名のり彼女に手錠をかけ、幽霊列車などはまっかのうそでこの先にある軍需工場の隠匿物質を運び出す上の狂言で、駅長はその一味だった事、バスの故障は彼が大川をおどかして仕くんだ芝居だった事を述べた。丁度その時列車が近くに見え出し、息を取りもどした駅長は渋谷の強制で列車を停止させるが、次の一瞬彼はすばやくも運転台に飛びのり、運転士をピストルでおどかし自分で列車を動かし始めた。事の成行に気づいた野上は動く汽車に飛び乗った。必死に運転する渋谷の背後に現われたのは、カンカン帽をかむりおどけた山下だった。驚いた渋谷はピストルを発射するが、山下は防弾チョッキをきているので仲々死なない。その内野上の救援でニセ刑事の渋谷をとらえた。駅であわてふためいている石田と藤木は土地の探てい山下の部下だった。大川を殺したのも渋谷で、藤木達が盛んに親切にしたお嬢さんは実は彼の情婦だったのでがっかり。間もなく列車が入って来た。犯人は警察の手に渡され、今は幸福そうな野上と京子、そして新婚の夫がバスの車掌圭子と昔関係があったのを知った若妻もまた新しい結婚に再出発。駅にたむろした乗客たちも不安の夜が明けそれぞれ去っていく。
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