藤田進
新井圭一
望月利雄の製作によって婦人倶楽部提載の川口松太郎の原作を、「大都会の顔」の阿部豊が監督、「暁の脱走」の三村明が撮影に当たっている。出演者は、宝塚少女歌劇から転向の久慈あさみの初出演に「肉体の暴風雨」の藤田進と入江たか子、「愛と憎しみの彼方へ」の池部良、「東京新撰組(1950)」の月丘夢路などである。
新井圭一が戦争中、医学生として学位論文を書くため、伊豆の宿にいたとき近くの別荘番の娘姉妹と親しくなり、ことに姉の伸子とはひそかに思慕の情を持ち合ったが、別荘の主花小路伯爵が伊豆に来るようになってからはふっつりと伸子が圭一をたずねなくなりやがて白バラの花束の贈り物を最後に完全に消息がたえた。今、垣内病院に勤務する新井の許へ、ある日白バラの女よりと署名した手紙がとどけられ、案内に従って行って見ると、あるクラブであって、経営者は、花小路夫人を名乗る伸子であった。当主花小路は斜陽華族の例に洩れず、生活無能者で、伸子の働きによつてようやく対面を維持しているのだった。数年をへだてて相逢った圭一と伸子の気持ちは急速に近づき、伸子は花小路と別れて圭一と結婚しようと決心し、圭一も信州から遥々看護婦修業に上京した、許婚の尚子を捨てようとした。その矢先、花小路正信が交通事故で、垣内病院へかつぎ込まれ、偶然圭一が執刀に当たらねばならぬことになつた。医師として恋敵の生命を、自分の思いのままになる立場に置かれた圭一は、誘惑に打ち勝って、医師の良心に従い、花小路の生命を救った。正信も病床にあって初めて自分が華族という殻を抜けきれず、伸子に対してもこれまで人間らしい愛情をそそぎ得なかったことを伸子にわびた。足が不自由となり、初めて人間らしい懺悔を自分にする夫を伸子も捨て去ることは出来なかった。やがて、圭一は一人淋しく東京を去った。しかしそれを見送る尚子の姿があった。
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