大河内傳次郎
滝蔵
「春の潮」「戦火の果て」「長崎の鐘」などの新藤兼人が書き下ろした股旅物のオリジナル・シナリオを、「痴人の愛(1949)」「浅草の肌」などの木村恵吾が監督して、「千両肌」の大河内傳次郎が久しぶりの長脇差物である。相手役は「殺陣師段平(1950)」をあげた山田五十鈴で、沢村貞子、東野英治郎、星美千子、山本礼三郎、製作は亀田耕司である。
かつては子分身内三千と言われ、赤城一帯に確固とした地盤を持っていた星越の滝蔵も、身辺にその筋の厳しいせんぎの手の伸びて来たことを知って、赤城をあとに落ちのびることになった。従う子分は僅かに十数名で、その中でも、炭焼き娘のユキは野獣にも等しい山育ちの娘で、滝蔵の山篭りに飯焚きを手伝わせて以来傍を離れず一行について歩いているのだった。それと同時に必らず自分の手で、いつかは滝蔵を捕縛して見せるという、目明しの三次が、一行の行手に、時々ふっと立現われるのだった。滝蔵たちは、秋深い信州路を目指していたが、途中一人二人と子分の数が減って行った。ようやく妾のおみねのところへ着いたときには子分も彌太七外四名、それに相変らず黙ってついて来るユキだけになっていた。けれど、滝蔵はここにも落着くことが出来なかった。おみねが、落目になった滝蔵を売って、夜中に役人に寝込みを襲われたのだった。やっと逃れて落合ってみると、子分の民吉は姿を消し、助次郎は百姓になると、暇を取って行った。滝蔵は次々と裏切られて、次第に自虐的な気持になって行った。物は試しだと、第二の妾のお新を訪ねた。お新は涙を流して滝蔵を迎えたが、実は、土地の親分青柳の喜三郎の妾になってしまっていたのだった。お新もまた滝蔵を売った。汚い物置で寝ていて偶然これを知ったユキが、滝蔵にそっとこれを知らせた。滝蔵を襲った喜三郎を一刀のもとに斬って捨て、更にお新も斬ろうとしたとき、その袖にすがって止めたのはユキだった。また当のない旅が続いた。旅寝のつれづれに十九歳になるユキの肉体に目をつけて、これを犯そうとした子分の繁太郎は、滝蔵に斬り捨てられた。ユキの肉体を欲しがる彌太とユキの預っている金を奪おうとしている権次。滝蔵は二人を斬り殺したが、彼もまた右肩を深く斬り込まれていた。このときまた三次が姿を現わした。今度はそのあとに大勢の取方を従えていた。山の奥深く逃込んだ滝蔵は、ユキと二人切りになって、初めてユキの自分に対する深い愛情を知った。けれどそのときすでに山小屋は取り囲まれていた。是非逃げ伸びて、二人切りの幸福な生活をと願ったが、山から谷を必死に逃げ回って、結局二人は断崖の上に追いつめられた。二人は固く抱き合ったまま、深い渓谷の青い水の中へ落ちて行った。
滝蔵
ユキ
お新
おみね
彌太七
三次
権次
繁太郎
喜三郎
助次郎
谷五郎
山権
徳蔵
民吉
茶屋のおやじ
セツ
お勝
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