山村聡
鳴木賛平
「肉体の白書」「紅二挺拳銃」を製作した新映画社の第三回作品で、東映との提携による原作は、週刊朝日に掲載された記録文学、深安地平作の「軍艦解体」で、「きけわだつみの声(1950)」の八木保太郎の構成によって、「雪夫人絵図(1950)」を依田義賢と共同脚色した舟橋知郎が、西鐵平と共同で脚色に当っている。監督は、「きけわだつみの声(1950)」「戦火を越えて」の関川秀雄で、出演者は「戦火を越えて」の山村聡、河津清三郎、岸旗江、菅井一郎等。
旧軍港のK町では、かつて軍国日本のために活躍した巨大な軍艦の解体作業が続けられ、幾百人の工員や作業員たちが、作業場で働いていた。その中には、須波真三のようにかつての特攻隊長だった者も、鳴木賛平のように海軍少佐であった男も混じっていた。彼等は、戦争中、多くの若い部下を戦火の中へ駆り立て死なせた自責もあれば、かつては自負心の拠り所でもあった軍艦の解体作業の中へ自らをたたき込んで、自ら自身を鍛え直そうとする意気込みもあった。しかし、一日の激しい労働が終ると、彼等もやはり他の労働者と同じく一日の賃金を握って、明るい灯のつく町の酒場へと向うのだった。ひさご亭の娘住江は須波に好意を寄せていた。街の芸者栄太郎は、鳴木を愛していた。賛平も、自分が戦死したものと信じて再婚し、行方が知れずなった妻のよし子の面影を栄太郎のうちに求めて、その体を抱きしめて見るのだった。そうした間に親切者だった作業場の組長小島が負傷して、憎まれ者の松田が組長代理となると、早速土地の顔役荒井に買収されて、解体作業妨害の片棒を担ぐのだった。ある夜、前後不覚に酔って海岸の方へ出て行った須波は、ふと気がついて目を覚ますと、助けられて小さな部屋に寝ていた。壁に軍艦の写真がかかっていて、淋しそうな顔をした女がいた。その女が須波を救ったのだった。そして、排水ポンプの故障で、須波が負傷をして入院したとき花を持って見舞いに来たのもその女だった。解体作業が進んで軍艦「ハルナ」が浮揚したら、その上へこの花をまいて下さいという手紙をつけて赤白のカーネエションを送り届けて来たのもその女であった。港の夜の暗闇りの中で、鳴木がふと行きずりに見て、妻のよし子ではないかと追いかけたのもその夜の女だった。女は鳴木の姿を見ると何故かあわてて逃げて行った。解体作業は、荒井たちの悪辣な妨害を未然に食い止めて、着々と進められ、軍艦「ハルナ」は浮き上った。そしてその上にまかれた赤白の花を浮べながら、曳かれて行った。「ハルナ」の解体作業が終ったとき、鳴木は須波と住江の二人の幸福を祈りながらこの港町から去って行った。その同じ汽車の最後尾の客車には、偶然例の夜の女が乗っていた。鳴木はそれを知らない。女も鳴木の乗っているのを知らない。しかも女は鳴木の求めている妻のよし子の堕ちた姿であった。
鳴木賛平
須波真三
住江
オヤジ
栄太郎
松田虎治
荒井敏
チビ
ノッポ
刈田
伊東主任
小島組長
所長
野村先生
夜の女(鳴木の妻)
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