日守新一
探偵
「お嬢さん罷り通る」の瑞穂春海の原案で、須佐寛の製作、「ペコちゃんとデン助」の中山隆三が脚本を書き、「シミキンのスポーツ王」の川島雄三が監督している。俳優は「東京新撰組(1950)」の西條鮎子と河村黎吉、「お嬢さん罷り通る」の日守新一などが主なものである。
銀座の片隅に事務所をかまえたある探偵--名前などはどうでもよろしい--商売不振で今日は最後に残った有金全部--といっても金十円を掏られてしまった。その上、事務所へ来てみるとビルの管理人は室代の取り立てに高利貸は貸金の取り立てに待ちかまえていた。さんざん油をしぼられたが、折から見せられた新聞に、銀座を荒しまわる美貌の女掏摸を捕えた者に、賞金十万円という記事を見て、一策を案じ、二人の借金取りから小使銭を巻き上げて銀座街頭へ飛び出した。すると右頬に黒子があるという写真で見たその美人掏摸が銀座を走っているではないか。探偵は夢中になってそのあとを追いかけたが、実はそれは映画会社のロケーションで女掏摸によく似た女優が、女掏摸を演じているのだった。女優はロケバスで新橋へ行き、そこから湘南電車で大船へ。彼女が女優とは知らない探偵も、彼女を追って大船の撮影所までやって来た。エキストラの群に紛れ込んで、まんまと所内へ入ってみると、そのエキストラの中に本物の女掏摸が入っていたので、事はこんがらがって来た。女掏摸とばかり思い込んで追っかけて行くと女優だったり、女優だと思うと、女掏摸だったり、探偵はいい加減所内を引っかき回し、折から撮影中の田中絹代、佐野周二、淡島千景、月丘夢路、森雅之、高峰秀子の面々まで、でんやわんやの中へ引っ張り込まれるが、結局探偵の努力は報いられ、女掏摸が捕まったばかりでなく、探偵は十万円の賞金と共に、くだんの女優の好意までも獲得出来るようになったとは、めでたし、めでたし。
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