ひとりの母の記録
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ひとりの母の記録

1956年6月7日公開、37分
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一主婦を中心として信州伊那谷の養蚕農家を例に農村問題を描く。一般向、映画祭入賞(社会教育部門第一位)の自主作品。下伊那郡山吹村と下伊那教育委員会協力。

ストーリー

「いま農村婦人がどんな立場にあるか、それが農村問題とどんな関係をもつか、ひとりの母をとおして追求してみました」と製作意図は語る。「しかし、この映画で農村問題を解決し、明確な答を出そうなどとは考えていません。ただ農村の問題を考えてゆくうえに、一つの足がかりとして利用していただきたい」 桑畑でおおわれた伊那谷の山丘や斜面から、つくりの大きな養蚕農家の紹介となるが巻頭音楽はない。父、祖母、年頃の長男(長女は町の製糸工場に出稼)、次女、弟、保育園の妹たちが朝食の最中で、いそがしい母は食事も最後となる。六反の田畑をもつ宮沢一家はよく働くが、特に養蚕と麦刈と田植えの重なる六七月となると一家の中心である母のいそがしさは大変なものだ。立ち働く母の姿を残酷なまでによく追う。しかも元の地主から手伝いを求められれば断われず、かんじんの父と長男が手伝いにいって、その分がまた母にかかる。そこに雨などがふってくれば桑の取入れのため戦場のような騒ぎとなる。 そのころ工場の長女から家のいそがしさを案ずる手紙がくるが返事をかくまもない。蚕のため洗たくも真夜中にする始末だ。おまけに桑に病気が出て不足となり、農協は仲買人から桑をあつめる。桑を買ったのでは損だが、せめて桑畑にいれた肥料代ぐらいは取戻さねばならぬ。いそがしさにやつれた母の顔は無類、演出に助けられ全篇を通じて俳優などにはない演技以上の演技をみせ特筆に値いする。あわただしく働く母の画面に次女の声が「お母さんはもと製糸女工で、五人の子を生み働きつづけてきたが、私もお嫁にいったらお母さんみたいになるのでしょうか」と訴える。 ようやくマユをかけはじめ、赤字でも一家はあかるく、はじめて母の顔もほころびる。しかし、このヒマを利用して田植えがなされる。マユは組合に収められるが肥料代などが差引かれると何ほども残らない。そしてマユをつんだトラックが村道を走りさり、ほこりの中に見送る母はこぼれたマユをひろう。 次女も製糸工場の補欠試験をうけ、パスして母娘は町にワンピースを買いにゆく。例年のカイコ祭が催されて老人連はジョウルリを語り、ふるまいに喜ぶ。だが青年たちは集まると出かせぎの話がはずむ。宮沢家の長男も現金の入る林道つくりの出かせぎにゆき、母はいつもの通りあきらめて見送るだけだ。すぐ麦こきがきて息子の分は一家の肩へかかり母は一層あせにまみれる。家を思う長女から再び手紙がきて「みんながバラバラに出かせぎしても、ふつうの百姓がたべてゆけないのは、どこかがまちがっているに相違ない」と思いつめた言葉である。それを祖母などはあきらめているわけだが母はただ黙々と、お嫁のとき持参した着物を工場へ立つ次女のこおりに入れる。そして娘を駅に送った母はその帰途、同じような母たちが、きょうも田んぼに働く姿をみる。ハミングが高まる。

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作品データ

原題
A Farmer's Wife
製作年
1955年
製作国
日本
配給
日活
初公開日
1956年6月7日
上映時間
37分
製作会社
岩波映画


[c]キネマ旬報社