デイヴィッド・ブラッドリー
Billy Casper
ハヤブサと戯れることだけが生きがいの労働者階級の少年の姿を、叙情性と冷酷さが同居する鮮やかなタッチで描き出した一編。監督は「夜空に星のあるように」「リフ・ラフ」「レイニング・ストーンズ」のケン(ケネス)・ローチで、戦後イギリス映画で最も重要な映画作家と言われる彼の長編第2作。素人俳優の使用、徹底したロケーション主義など、禁欲的で知性あふれるスタイルが見どころで、監督自身が自らの最高傑作に挙げている。製作は『キャシー・カム・ホーム』(日本未公開)などローチとのコンビで知られるトニー・ガーネット、本作のためにローチとケストレル・フィルムズを興した。脚本はバリー・ハインズの未発表小説『Kestrel for Knave(少年の長元坊)』を基に、ハインズとローチが共同で執筆。望遠レンズの巧みな使用とロングショットの交錯が印象的な撮影は、のちに「キリング・フィールド」「ミッション」を手掛ける名手クリス・メンジス。出演は主人公ビリーに扮するデイヴィッド・ブラッドリーをはじめ、全員が実際に炭鉱町に住む労働者階級の人々である。ビリーに理解を示す教師を演ずるコリン・ウェランドのみが職業俳優で、後年「わらの犬」(出演)をへて、「炎のランナー」(81)で第54回アカデミー脚本賞を受賞した。ロケ地の炭鉱町は原作・脚本のハインズの生まれ故郷バーンズレイで、主要な舞台でもある学校では、彼が実際に教鞭を取っていたこともある。69年カルロヴィ・ヴァリ映画祭でグランプリを受賞。日本ではテレビ放映のほか、94年に川崎市民ミュージアムのケン・ローチ回顧特集でも上映。
中学卒業を控えたビリー(デイヴィッド・ブラッドレー)は、母(リン・ペレー)と炭鉱労働者の兄ジャド(フレディ・フレッチャー)の三人暮らし。父はずっと以前に家出し、生活は苦しく、彼も毎朝新聞配達のアルバイトなどをしている。学校では劣等生だ。ある日の早朝、ビリーは森の古い僧院の壁にハヤブサの巣を見つける。ハヤブサのヒナを飼いたいと思った彼は、土曜日に町の古本屋で猛禽の訓練法の本を万引きし、その晩兄と母が出掛けた後で読みふける。夜明け近く、酔って帰った兄に起こされたビリーは森に行き、ハヤブサのヒナを捕まえた。ヒナはケスと名付けられ、ビリーの訓練にどんどんなついていく。学校の体育の授業で、ビリーは体操服を買う金もなく、運動も苦手なので教師に目の仇にされている。この教師はサッカーの試合でも生徒相手なのに本気になり、試合に負けたのをゴールキーパーのビリーのせいにしていびり抜き、冷水のシャワーに閉じ込めたりする。独善的な体罰主義者の校長も、ビリーたちを理不尽な目に合わせる。そんななかで国語教師ファーシング(コリン・ウェランド)だけは、やる気のない彼にも粘り強く接し、ある日彼にクラスの前で話をさせる。最初はひっこみがちなビリーも、ハヤブサの話になると目を輝かせて話し始めた。彼はビリーを体の大きな同級生のいじめから救い、ハヤブサのケスを見せてほしいという。夕方、牧場で無心にケスを飛ばせるビリーと、その彼を見つめる教師。ある朝、ジャドがビリーに馬券を買うよう指示した書き置きをしていった。ビリーは馬券売り場に行くが、これは外れるから買わなくていいと聞いて、預かった金を使ってしまう。ところがこの馬券が大穴で、怒ったジャドが学校に乗り込んでくる。ビリーは兄から逃げ回るが、ケスのことが気になり慌てて帰宅すると、ケスはジャドに殺されていた。ビリーは泣き、母はジャドを罵るが、なすすべはない。ビリーはゴミ缶に捨てられていたケスを拾うと、草むらに墓を掘って埋めた。
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