押井友絵
少女
少女が見るはじめての東京を、心細さや切なさと共に描く短編映画。立体映像作品であり、観客も3Dメガネを装着する。『暗いところで待ち合わせ』などで人気の小説家、乙一が、本名である安達寛高として監督・脚本。主演はアニメ監督の押井守の娘であり、安達の妻である押井友絵。作家の佐藤友哉、滝本竜彦、碧野圭が友情出演している。
新幹線で東京へやってきた少女(押井友絵)は、はじめて降りたった街中でバッグを盗まれてしまう。泥棒(滝本竜彦)を追いかけるがすぐに見失ってしまい、少女はひとり、東京をさまよい歩く。夜、繁華街で立つ少女に声をかけてくる男(佐藤友哉)もいるが、少女は関わらないように避ける。そのとき、少女は手帳を落としてしまう。男は手帳を拾い上げるが、泥棒を少女が見失ったように、また男も少女を見失ってしまう。バッグを盗まれ、手帳もなくし、少女は途方に暮れるが、やがてバッグを盗まれた場所で遭遇できるのではと考え、そこで泥棒を待ち続ける。泥棒の姿を見つけると、少女はあとをつける。尾行の末、泥棒の自宅まで辿り着く。鍵の隠し場所を覗き見ていた少女は、泥棒が家を空けた隙に部屋へ入る。そこには、無機質なスチールラックに盗品の数々が、まるでディスプレイされるかのように置かれている。自分のバッグを見つけ、中に小さな人形が入っているのを確認すると、少女はバッグを抱えて出ようとする。そこへ、泥棒が帰宅する。しかし泥棒は何も言わずにまた外へ出て、煙草をふかしはじめる。見て見ぬふりで少女を逃すと、泥棒はニヤリと笑う。街中へ戻った少女を、以前声をかけてきた男が、再び呼び止める。少女に手帳を渡し、男は去っていく。手帳には別れた母親の住所が書いてあり、少女はそれを頼りに母親の自宅へ向かう。ドアの前、少女の手には小さな人形。その人形は母親の思い出がたくさん詰まっている大切なもの。幼い頃の記憶を呼び起こしながら、呼び鈴を押すが、母親は不在だった。少女は名残惜しそうにドアから離れるが、帰り際、ポストに人形を入れていく。すれ違うように帰宅した母親は、ポストの中に人形を見つけるも、少女の姿はすでにない。少女はまた新幹線に乗り、東京を去っていく。
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