性同一性障害の悩みを抱えつつ生き抜く高校教師、土肥いつきさんの姿を通して、人が生きることの本質を問うドキュメンタリー。日本映画学校の卒業制作として製作され、その年の最優秀監督に贈られる“今村昌平賞”を受賞した作品を、梅沢圭監督自身が再編集を行なって劇場公開。2011年10月7日より、東京・南青山スパイラルホールにて開催された「第20回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭」でも上映。
ストーリー
“自分にとって根源的な欲望は女性の身体を獲得することだった”と穏やかに語る土肥いつきは、長年の夢だった性別適合手術へと向かう。京都の公立高校で教師を続けながらこの十数年来、少しずつ女性化してきた彼女(彼?)の身体的な終着地点。かすかな不安と期待の笑顔……。軽やかな関西弁で、いつも笑顔を絶やさないいつきの周りにはいつも人の輪が絶えない。屈託なく語り合える友人たち、いつきの数学授業を受ける生徒、機材の扱い方を訊ねる放送部員、“自分が何者なのかわからない”と助けを求めるトランスジェンダーの高校生……。しなやかに、ときに忍耐強く、他者にとっても自分にとっても居心地のよい場所を探し続けるいつきに、だれもが今まで一度も口にしたことがないような想いをつい口にしてしまう。ある日、取材を続けていたスタッフの1人が突然、現場を離れる。いつきと出会い、時間を共有する中で、彼自身の封印していた秘密と対面することになる。彼は“もう1人の自分が後ろ側に姿を現した感じがする”と混乱。“性”を巡るいつきの真摯な問いは、いつしかいつきと向き合う人々の過去と現在を鏡のように映し出し、それぞれの“私とは何か?”という問いへと深化してゆく。そして女性の身体を獲得した後も、いつきの心の旅はいつ終わるともなく続いてゆく……。