世界的なトップダンサーであり、日本のフラメンコの先駆者、長嶺ヤス子の姿を追ったドキュメンタリー。激しく踊る舞台上の姿とは対照的に、100匹以上もの捨て猫や犬と暮らし、静かに油絵を描くその日常を通して、生きる意味を問う。監督は「季節、めぐり それぞれの居場所」など、数々のドキュメンタリーを手掛ける大宮浩一。
ストーリー
東日本大震災の発生から間もない2011年春。直腸がんに倒れた長嶺ヤス子は病室のベッドにいたが、その表情は不思議と穏やかだった。そして、手術から1ヶ月後。ステージには華やかに舞う彼女の姿があった……。昭和35年、当時20代の長嶺ヤス子が単身、スペインのマドリッドへ渡った頃、フラメンコはスペイン人が踊るものだった。それは彼女にとって“伝統”や“民族”という越え難い壁だった。しかし、その葛藤が独自の表現を生み、やがて栄光が彼女を包む。『イグナシオ・サンチェス・メヒーアスへの哀歌』で文化庁芸術祭優秀賞と舞踊批評家協会賞、『サロメ』でゴールデン・アロー賞、『娘道成寺』では文化庁芸術祭大賞を受賞。ニューヨーク・リンカーンセンターでも熱狂を生み、旭日小綬章の受章へ……。和楽、ロック、サンバから読経まで、他の追随を許さない“長嶺ヤス子の世界”が拓かれてゆく。その一方で、100匹以上の捨て犬や猫と暮らすために、彼女は故郷に近い福島県猪苗代に家を借りている。動物たちといるときは、ステージとは別人のよう。時には友人の家に泊まり込み、老犬の世話をする。それは何故か……?毎年個展も開催している油絵。その中には、煌びやかな衣装を脱ぎ捨てたヌードのフラメンコを描いたものがある。彼女は語る“フラメンコは美しいものではなく、人間の醜さや本性の表現だから、絵でもそれを描く。それができるのは踊りの身体感覚が沁み込んだ私だけ。”孤高の芸術家の素顔とその生き様を通して、“生きるとはどういう事か?”と見る者に問いかける。