アラン・アーキン
Abraham
お金では暖まらない人の心も、至純の輝きをもつ魂によって満たされる。現代のおとぎ話。製作はハーバード・B・レナード、監督は「ある愛の詩」のアーサー・ヒラー、脚本はティナとレスター・パイン夫妻、音楽はドミニク・フロンティアがそれぞれ担当。出演は「愛すれど心さびしく」のアラン・アーキン、「ウエスト・サイド物語」のリタ・モレノ、2人の息子には、長男役に11歳のミゲル・アレハンドロ、次男役に10歳のルーベン・フィゲロア。この4人はいずれもプエルト・リコ系ニューヨークっ児である。
ここ、ニューヨークのウエスト・サイド、ジャングル横丁に住むプエルト・リコ系市民アブラハム・ロドリゲス(アラン・アーキン)は、2人の息子ジュニア12歳(ミゲル・アレハンドロ)とルイス11歳(ルーベン・フィゲロア)をかかえ毎日が生活との闘いであった。アパートの雑役夫、ホテルの皿洗い、病院の雑役夫と3つの仕事をかけ持ちして頑張ってはいるが、それでもやっと人並みの生活なのである。母親のいない生活は子供たちに事の良し悪しさえも見分ける心を失わせ、自分のオヤジは悪名高いギャングの弟だといいふらしては仲間うちでテングになっている。アブラハムは子供たちを見て、絶望的になったが、アブラハムの恋人ループ(リタ・モレノ)は心優しい女で、早く結婚してブルックリンに移れば問題はないなどと思っている。息子の将来を思えば、致しかたのないことなのだ。翌日から息子たちに特訓を始めた。ボートの漕ぎ方、星の読み方、キューバの小さな漁村の風景や地図や、人々のことを。つまりキューバからの亡命者に仕立てあげ、政府の保護のもとに、うまくいけば金持ちの養子にならないとも限らないのだ。しかし、子供たちは逃げ出してループに助けを求めた。ループも説得したが、アブラハムの決心はガンとして変わらない。とうとう子供たちをマイアミへ連れて行って、2人をモーターボートに乗せると、泣き叫ぶルイスにも目をつぶり、暗い海へ突き出した。アブラハムは程なく伝わるだろうニュースを待った。しかし、いっこうにニュースは報道しない。イライラして、沿岸警備隊にそれとなくあたっても、いっこうにモーターボートの事など伝わってこない。絶望的になり、砂浜に倒れたアブラハムの耳に、子供救出のニュースを告げるラジオの声が入った。気狂いのように病院へ駆けつけると、子供たちは完全にキューバ難民と思われ、このニュースにアメリカ中が湧き返っていたのだった。次々と贈られてくる善意の贈り物、ホワイト・ハウスからの招待、多くの詰めかける記者。すべてはうまく運んでいるのだ。しかし、アブラハムの子供への愛情はいかんともしがたく、何度も失敗したあげく遂に子供たちの病室にもぐり込んだアブラハムに、子供たちは飛びついた。どんな金持ちでも養子なんかイヤだ! ニューヨークへ帰りたい! 泣きじゃくる2人のおかげで、とうとう全部バレてしまった。当惑した政府は、こっそり親子をニューヨークへ帰した。またふり出しに戻って悩むアブラハムに、子供たちは喜々としてまとわりつくのだった
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